『日本は没落する』を読む

nankai2008-01-30

 右の写真はキセキレイ.今日『日本は没落する』(榊原英資著、朝日新聞社)を午後2時頃本屋で手に入れ、5時半の授業がはじまるまでに読んでしまった。高校生の皆さんにこそ、ぜひとも読んでもらいたい。著者は大蔵省金融局長や財務官を歴任した国際金融政策のプロ中のプロである。「はじめに」に次の一節がある。

 スポーツ選手や芸能人にあこがれ、地道な努力を厭うようになった多くの若者たち。中国やインドで目を輝かせて勉学にいそしんでいる若者たちと比べると、そのあまりにも大きな差に愕然とせざるをえません。
 脳神経科学者・森昭雄は近著『「脳力」低下社会』(PHP研究所)の中で、ゲーム・パソコン・携帯電話等の普及が日本人、特に子供たちの「脳力」を急速に低下させていると指摘しています。映像等からの一方的かつ受動的な情報の洪水が子供たちのコミュニケーション能力と考える力を次第に奪ってきているというのです。情報通信革命が人々の情報処理能力を弱めているというのはまことに皮肉な話ですが、高度化した技術はうまく使いこなさなければ負の効果をもたらすというのも、ある意昧では当然のことなのでしょう。
 こうした社会の「幼児化」や「脳力」の低下は、そう遠くない時期に日本経済のパフォーマンスに大きな影響を与えることになるでしょう。

 これはまったくその通りである。心当たりのある人もいるだろう。問題文を読んで空間図形が再構成できない生徒、確率の試行がつかめない生徒が近年急増している。センター国語ができない人も、このような時代なかで増えている。塾の生徒で見ていてこれだから、全体でどのようになっているかおよその現状はわかる。
 著者は、「ポスト産業資本主義の時代/ニホン株式会社が没落する日/激変する世界市場、取り残された日本/大衆迎合主義がこの国を滅ぼす/「公(パブリック)」の崩壊/「教育改革」亡国論/金融・年金問題の深層/日本の進むべき道 真の抜本改革を!」と現状のままではまったくだめだということを縷々述べていく。教育に関するところに次の一節もあった。

 とりわけ問題は、数学始め理科系の教科がカリキュラム上で軽視されるようになったことです。
今はほとんどの生徒が高校で数IIIを学びません。それは文科系の学部では受験に必要ないという理由であり、私立の文科系学部の受験科目には数学そのものが存在していません。
しかし数学は論理の基本であり、論理性こそ文理を問わず学力の基礎となり、社会に出てからも仕事の上で基本となるべきものです。

 これもその通りである。せめてと思って、私の数学の授業ではここでいう論理の力をつけることに重点を置いているが、特に文系の演習でそれを心がけているが、全国的にいえば数学・理科の基礎教育が崩れている。

 高校生の人はあなた自身の未来への問題提起だと思ってぜひ読んでほしい。教育の現状については、自分をよく見直して、足りない力を意識してつけるように、自分の力を奪い返すように、勉強してほしい。
 本書を読んで、そこでどうするかはいろいろな意見があっていい。著者は最後に「大改革のために不可欠な『没落』という危機感」でいっているように、基本的には警鐘を鳴らして、なんとかしようとしている。
 私は、一つの国家のあり方が歴史的な役割を終えたとき、没落するのは避けられないのではないかと思っている。そのときいちばん苦しむのはわれわれ一般の国民なのだが、没落するものならいちど徹底的に没落しないとだめではないかとも考えている。それでも人間は生きていかなければならない。平安朝の没落とその下での人々の苦闘から、新しい鎌倉幕府や鎌倉仏教が生まれ出たように、そこではじめて新しいことが形をとっていくような気がしている。
 今は、そういう大きな変化の前夜ではないかと思う。日本の没落という問題も、もっと大きな枠組みの中で考えなければならない。著者の言うところでは、今という時代は、産業資本主義から、後・産業資本主義への移行期であるということになる。私は、この時代にどのような政治制度や体制が必要かは、まだ見いだされていないと思う。それだけに、これからの時代は試行錯誤をくりかえさなければならない時代であり、その意味で、おもしろく生き甲斐のある時代だということになる。
 このような本からいろいろ学べる高校生がもっといて良いと思う。未来を見つめ、今を精一杯生きるのである。