『日本解体論』を読む

 19日に朝日新書の『日本解体論』(白井聡,望月衣塑子)を手に入れ,一気に読んだ.
 2008年に「『日本は没落する』を読む」を書いて以来,これまでもここで,日本の没落について幾度も書いてきた.
 没落する日本にあって,この現実と向きあおうと,白井聡さんと望月衣塑子さんが対談を重ねた書である.本のカバーには
  崩壊が加速するこの国に希望はあるのか
とある.そして第五章「劣化する日本社会」の「五輪で世界にさらした後進性」の節で,白井さんは

日本社会には国際社会の標準的感覚がないのですよ。そこで欠けているのは,公正性や正義に関わる規範や倫理です。そこにおいて日本社会が世界標準とどれだけずれているのかということを晒してしまったわけです。

と述べている.この書が現代日本の現実について指摘する内容に異議はない.白井さんは「あとがき」のなかで,

劣化しているのはさまざまな現場における個人であると考えない限り,われわれは何をなすべきか,指針が得られることはない。社会現象を構造的に把握することを生業とする学者としてこうした物言いをするのは本来あまり好ましくはないのだが,それでもなお,今日の状況に照らせば,劣化に抗する拠点は個人の覚悟にしかない,と言わざるを得ない。

と述べている.これにも異議はない.
 ぜひ読んでほしい.
 ここに書かれていることは,私が23年前の夏に「青空学園日本語科」や「青空学園だより」をはじめた問題意識と通底する.その内容が,こういう書籍の形で出てきたことは一歩の前進である.著者二人は問題提起をしたのだ.
 では,その覚悟をもった個人は何をしなければならないのか.この問いに対する著者の見解は開かれたままである.
 私が「青空学園数学科」を開設し,つづいて「青空学園日本語科」をはじめたのは,自分に出来ることはしなければという思いからであった.
 青空学園の視点から言えば,「分水嶺にある近代日本」で書いているのだが,非西洋にあってはじめて資本主義化した日本の近代を問う,という観点が,この書では提示されてはいない.
 日本の近代は,西欧帝国主義の外圧に対応しようと長州らの下級武士を担い手とする明治維新にはじまる.それは内からの人民の闘争で生まれたものではなく,その意味で根なし草であった.根なし草近代のなれの果てがアベ政治であり,その果ての暗殺であった.これが「崩壊が加速するこの国」の現実である.
 根なし草近代日本を内から批判する立場に立たなければ,これからの途は見えてこないのではないか.
 いろいろと考えさせられる一冊であった.

 そして世界はいま,大きな地殻変動とも言うべき段階に入りつつある.資本の側は「グレイト・リセット」といっている.これをテコにもういちど資本の側で世界を再編成しようとしている.しかしながら,拡大しなければ存続しえない資本は,いずれ終焉する.まして再編を主導することは出来ない.
  私が言ってきたように,根のある変革による緑の社会主義,これがわれわれの基本とするべき理念である.これを,まさに遺言としてもう少しは展開しなければならない.