ガロア理論

 雑誌『現代思想』4月号が「ガロアの思考」を特集している.ガロア生誕200年を記念してのものである.そのなかで吉田輝義氏の「ガロア理論の基本定理」にいたく感動した.
 ガロア理論については思い出がある.エム・ポストニコフの『ガロアの理論』(1964年4月25日,東京図書出版発行)を高校3年生のときに買った.大学に入ったらこの本を読もうと,それを励みに受験勉強した.数学以外は文系人間だったので物理や化学は苦手だった.この本を本棚に飾って,それを読む日が来ることを励みに苦手な科目も勉強した.そして何とか合格した.群論は高校3年の時,S先生,O先生と,級友のI君と私の4人で数学同好会を名のって,『群論入門』(稲葉榮次著,倍風館)を輪読,8割方読んでいた.大学1年前期で線型代数もやった.体論はこの本自体が詳しい.複素数体なので線型代数があれば読める.準備は出来た.それで1回生の夏にようやくの思いで『ガロアの理論』を読んだのだ.
 ところが,これが読めてしまうのだ.何も難しいことはない.第1部「ガロア理論の基礎」も読めた.代数的生成拡大が代数的単純拡大であることの証明に感心した他はすらすら読める.第2部「根号による方程式の解法」も読めるのだ.あれだけ憧れていたガロア理論が読めてしまうのだ.基本定理も当たり前のように記述されている.P47〜P48にはガロア対応の意義が書かれてはいるが,それを深くつかむことが出来ていなかった.そして思った.一体ガロアの理論とは何なんだ.何がそれまでの数学からの飛躍であり,何が新しいのだ.それがわからなかった.ガロア理論は理解出来た.しかし納得は出来なかった.それで第2部の第3章あたりから,具体的な計算は十分にはできなかった.
 今回,吉田輝義氏の「ガロア理論の基本定理」を読んで,若いころの自分の思いを整理することが出来た.また論考の中の基本定理の証明にも,あのときこのようなことを自分でするべきだったという悔恨とともに,心を動かされた.内容は各自読んでもらいたい.
 今から思えば,あのとき,19歳の夏にガロア理論を読んであのように思ったのなら,ガロア理論がどのような公理的前提のもとに示されるのかとか,5次方程式の根の公式の不存在の証明に何が用いられるのかとか,その根幹の定理は何かとか,自分でガロア理論を再構成しなければならなかったのだ.つまりガロア理論の構造認識である.それをしなかった,あるいはそのような問題意識は持ちえなかった.これらのことをいろいろ思い起こし考える機会となった若い吉田氏の論考に感謝する.
 一方,私の経験は,数学教育,あるいは教育数学にとってはまったく意味がないこともない.今なら,半年ほど準備すれば大学2年か3年の数学志望の学生にガロア理論を,単に理解するだけではなく,納得させる講義が出来る.今もう少し射影幾何を書いて,集中してパスカルの現代的意義を書いたら,その後,教育数学としてのガロア理論を再構成し、まとめてウエブ上に残しておこうと思う.
 この特集の他の論考のいくつかにもいいたいことがあるのだが,それは後日ということにしよう.夏期講習の最初の1週が終わった.みなよく勉強した.いつも目の前にいる高校生には,何かの真実を伝えたいと思っている.