仕事はじめに

nankai2013-01-04

三十日〜二日と休んで頭を空っぽにし,昨日三日から1日二つの授業.これが仕事はじめ.実家の本家は京都は宇治の茶問屋.大晦日まで集金し元旦は寝正月.そして正月二日が初荷と決まっていた.父が昔,そのことをよく話していた.初荷をして三日が仕事はじめ.今の塾は三日から授業で,昔の商家の感覚にあっている.松の内,十五日まではぼちぼち仕事をする.
ところで「仕事はじめ」と書いて,私にとって仕事とは何かを考えてしまう.受験業界での今の仕事はまさに生業(なりわい).メシを食うための仕事.これはやむにやまれずはじめたのであるが,以来二十年,年相応にあって,あるだけいいのだが,日々を送れればそれでよい.
それでも仕事で出会った生徒には,まさに誠心誠意,教えてきた.人と人の出会いであるからなにより大切にする.そんな教師の姿勢をはじめに働いた高校で教えられた.それで9年たっても会いに来てくれる.30年たっても親しくあいさつする.教えることで多くのことを学んだ.この現場の経験が「わかってにっこりが授業の原点」などの言葉のそれこそ原点.
昔,私の母親が,戦時中代用教員であった時代を懐かしんで,よくその当時の生徒の話をしていた.何か裁縫の資格はあったようだが教員免許はなくて,男手のない戦時中だけの代用教員だった.その仕事を懐かしんでいた.それを聞いて子供心に教員はいい仕事だと思ったのだろう.それが,どこかで私が教員の仕事についたこととつながっていたと,近年になってつくづく思う.そのことを一度は母親に話したかったが,もう二年前に二十三回忌をしたような次第.私が心配をかけたばかりに,早くに癌で亡くした.
確かに教える仕事はいい仕事なのだが,では教えることが自分の「仕事」か,という気持ちがある.仕事とは「し(する)−こと」.その人が「すること」.それをするがゆえにその人がその人であると言えること.自分は何を仕事とすることで人であると言えるのか.そう考えると,青空学園の諸作を作ってゆくことこそ,自分の仕事なのだと思う.
あくまで自分一人で,これまでの経験をふまえて考え,書くべきことを書き置く.それを読んでくれる人がいる.このブログも数学の言葉の検索でつながって足を運んでくれる人が結構多い.すべてのものを自由に使えるように置いておく.「これらを無償で公開されることに敬意を表します」とメールくれた人もいるが,そうするのはこちらの考え方である.すべてを,だれに気兼ねすることもなく,こちらの考えるように書いて,ウエブ上に公開する.すべての教材もそのまま公開する.こうして書き置けばいずれ誰かの役にたつ.
それにしてもよく五十歳台のうちにこれらを一通り書いておいたものだと思う.それは本当にそう思う.今から一からすることは体力,気力のいずれからもできない.しかしそれをふまえて,いまなら手を入れたいところは一杯ある.それが年の功なのかも知れない.『数学対話』ではこの十五年,勉強したことを書きためてきた.高校数学とその周辺ということに関しては,ほぼすべてが書かれている.しかしあくまで最初の自分の勉強であって,私自身の考えを述べ切れていない.「量と数」「対角線論法」「不変式」等は,たいへん深い内容であるが,ここに自分独自の考えはまだ書けていない.
数年前,教育数学ということを昔の数学科の同窓生に教えられ,それはそうだと納得し,自分のやってきたことをその基礎づけと位置づけてきたが,教育数学では,数学そのものと,教える内容としての数学と,その分離と統一が必要で,多くの数学教育書はそこがあいまいだ.私の書いたものでもまだ,自分の考えをまとめ切れていない.これをやらねばならない.前から言っている「幾何学の精神」も仕上げねばならない.このあたりを今年はやりきりたい.やはりこれが自分の仕事なのだろう.
いろいろ色気もあって他にもやっている事々があるが,まずここを,後に読む人が少しは意味あると思えるものにすることが,いちばん大切だ.その意味での仕事始めも,やはり昨日であった.こうして今年もはじまった.
こういうことを考え,こういうことをやる人間として,今年も世の事ごとに言うべきことは言う.なすべきことはする.デモに出て声をあげることぐらい人として当たり前のことであるようになってほしいと思う.出来ることはしたい.昨年末からの反動は,この転換期の揺れである.もう一度大きく本来の方向に転換させなければならないし,それはできる.文明の大きな転換点,そのはじまりの時代を,自分の内と外にひしひしと感じる.
写真は今朝,犬の散歩の途中で会ったカワセミ.昨日も会ったのだが望遠レンズをもっていなかった.今朝はもっていったのだが,川の向こう岸で,私の望遠ではこれが限界.いつも5月によく見かけるが,冬のさなかもこうして活動していたのだ.水面をじっと見ていて,魚を見つけると一気に飛び込む.