塾は禁止?!

「塾は禁止」教育再生会議で野依座長が強調と新聞に報じられている.

私は,小さい子供が塾に通うのは,本当のところは本人ためにならないことが多いのではと考えている.親は子供のためにといってお金をかけるのだが,その実,親の気持ちを落ちつかせるためで,それは決して本人のためになっていないことも多い.また,小学校低学年の塾に親が子供を連れ回し,本人はそれがいやだったのだがうまくいえず,高校になって教室に入れなくなり,そこではじめてカウンセラーの前で,小さい頃の塾がいやだったといい,親は横で「そうだったのか」と気づいたという例も知っている.そこで分かりあえたのはまだ救いがあるのだが.だから私は塾をそのまま肯定するものではない.

ところで,私は今,高校生の塾で教えている.塾業界は,教育分野の隙間産業であり,水商売である,と心得ている.私は生活のためにこの業界で働いているのだが,どのようなところであれ,数学を教える以上は,数学を通して,わかるおもしろさ,わかる喜びを実際に経験させ,次の代に伝えなければならないと考えている.数学を教えることを生業にする以上,それは責任だと考えている.

さて,野依先生は「塾は禁止」といわれるのだが,禁止してなくなるものだろうか.なくならない.それは,いわゆる水商売が禁止してなくなるものでないのと同じことである.現在の教育と世の中全体が必然的に塾業界を生み出しているのだ.これが現実であり,事実である.もし塾をなくしたいのなら,教育全体と社会のあり方を根底から変革しなければならない.

では,今回の教育基本法改定では,塾がなくなる方向に進むのか.まったく逆に塾の需要がますます増えるだろう.理由は2つある.ひとつは,新しい基本法の下で実際には学校がますます荒れ,学校教育が困難になっていく.塾にのがれそこで勉強しようとする.もうひとつは,現在の政治の下ではますます「格差」が広がり,親は子供を早くから塾に行かせて格差社会で落ちこぼれないようにしようとする.これで塾がなくなるものではない.

野依先生の「塾は禁止」という言葉からわかるのは,教育再生会議の人達がいかに教育の現実を知らないか,ということである.野依先生は座長である.現実を知らない人たちがあれやこれやとこね回すと,ますます学校は荒れるだろう.再生など無縁の人たちが,「教育再生会議」に集まっている,この事実はよく覚えておこう.