高校微積40年の変遷

nankai2008-07-26

夏期講習のMKZ(数IIIC)の準備で,改めて現在の数学IIIの教科書を見てみた.2008年現在の教科書は色刷りだけれども内容は少ない.感覚的である.一方,手元に1967年の数学IIIの教科書がある.豊かな内容であり,論理構成もしっかりしている.その違いはあまりに大きい.一体どのような内容がこの40年間に消えたしまったのか.あるいは教科書作成の基本思想がどのように変わってしまったのか.この40年間に高校微積で大きく変わったことは次の2点である.

  1. 平均値の定理を実数の連続性と微分の定義から証明すること.これがなくなった.
  2. 積分をリーマン和で定義すること.これがなくなり,代わりに「区分求積法」になった.

現在の指導要領には平均値の定理について「平均値の定理に触れる場合には,直観的に理解させる程度にとどめるものとする」と書かれている.これでは結局立ちかえるべき根拠がはっきりせず,かえってわかりにくい.連続関数の中間値の定理→微分の定義+ロルの定理平均値の定理,この構成がこの10年ほどの間になくなった.
2008年版では定積分の定義を抜かしたまま,「区分求積法」などというまったく非科学的な概念にすり替えることがこの間おこなわれている.1997年の数学IIIではすでにリーマン和での定積分の定義は放棄しているが,まだ「区分求積法」という言葉は出てこない.「定積分と和の極限」として後からリーマン和が出てくる.40年前はちゃんとリーマン和で定積分を定義していた.世界中で高校課程で積分を教える場合に,リーマン和で定義しないのは日本くらいなものではないか.「区分求積法」というがでは一体面積とな何なのか.なぜこの極限が定積分になるのか.論理構成が大変弱く,感覚的理解で済ませている.
理科教育の基礎は数学的思考である.それを養うのが高校数学だ.こんなことではますます日本高校生の科学力が低下する.
青空学園では『解析基礎』として高校微積とその周辺をまとめていこうと考えている.なかなか大変なのであるが,今の教科書を見ていると何とかできることはしなければと思う.
MKZの授業も,高校生の現在を考えるとどうしたものかと思案している.少しでも何となくわかったつもりになっているところを省みて考えるようになってほしいと思う.入試問題といってもそういう力があれば難しいものではない.
写真はナツアカネ.もう少し時間がたつともっと赤くなる.