今年の京大入試数学

nankai2010-02-27

今年の京大入試の数学理系乙は易しかったようだ.25日は二年生の授業があったので京都教室にいったが,受験生も何人か戻ってきていて,皆ほとんど解いていた.翌日の理科が難しかっただけに数学で得点を稼ぎたい人にとってはかえって辛いところだ.昨年は,このように書いたがやはり考えすぎであったようだ.また6番の確率は99年名古屋大の3番と同じだ.これを改題して

N個(N≧2)の箱の中に1回に1つずつ無作為に玉を入れていく.玉が2つ入った箱ができたら,そこでその手続きを中止する.ちょうど k 回目で2つ入った箱ができる確率をP(N,k)とするとき\lim_{N \to \infty}\frac{1}{N}\log P(2N,N+1)を求めよ.

としたものを直前講習の京大数学講座に入れてきた.数年使ってきたが今年同じ問題が出た.受講した人にとってはちょうど2週間前にやったばかりの問題ということになった.6番が10分でできたので助かったという人もいた.まじめにやっていればそういうこともある,というところか.京大は昨年たいへん難しかった.難易度が乱高下するというのはよくない.また文系の5番は,座標軸に対して斜め方向の回転軸での回転体の体積である.体積も数学IIの試験範囲にふくめるといっても,ds=\sqrt{3}dtの変数変換まで範囲だとは言っていないはずなので,これはあらかじめ指定した範囲の外の問題だ.もちろん座標軸をとりなおしたりしてこの問題を回避できるが,それは積分の変数変換に関する知識が前提としてあってのことだ.どうも問題作成が投げやりなやっつけ仕事のような気さえする.ここにはどんな問題があるのだろう.

  1. まずいえるのは,大学としてどのような力を入学にあたって求めるのかという基本方針がない,ということである.入試問題というのは選抜の方法であるとともに、大学から高校生と高校教育へのメッセージである.伝えるべきメッセージが混乱している.京大では問題作成委員が理系では甲乙二種の問題をつくり,それを見て各学部がいずれを使うか決めると言うことだ.あらかじめ学部の特性にあわせて甲乙とするのならわからぬではないが,問題を見てから学部ごとに決めるというのはおかしい.何のための甲乙なのだろうか.
  2. もう一つは出題者が、今の高校生の力がどのようなものであるのか,肌で感じてつかんではいないのではないかということだ.昔の感覚のまま出題すると,少し易しくしたつもりがうんと易しかったり,逆に去年のように少し難しくしたつもりがとんでもなく難しくなったりする.それと高校数学の研究がなされていない.だからまた,高校に何を求めるのかもはっきりしていない.ここには,高校から大学教養の数学教育について一貫したものがなく断絶しているという,日本の数学教育の大きな問題があるように思われる.そこに問題があることが認識されていない,あるいは重視されていなしという意味で二重の問題だ.

写真は庭角の黄色い水仙