複比による初等的方法

nankai2010-07-04

パスカルの定理と射影幾何学の精神』に「複比による初等的証明」を追加した.パスカルがデザルグの方法を知り,それを円錐曲線に応用してパスカルの定理を得たのはこの方法だったのか.あるいは古来知られていたメネラウスの定理を用いるものなのか.おそらくそのいずれをも見出していたと思われる.その過程を知る文献は残されていないようだ.私自身はこういう方面は詳しくなかったので,一から考えているがそれはたいへん面白い.「わからないからあと5分考えよう」とか日ごろ言っているが,こちらもそれを実践して「わからないから1ヶ月」状態である.複比の方法はもっと高校でも教えられるとよいと思う.
これから,パスカルの試論にあるその他の命題について,手持ちの方法で証明をつけていこうと思う.その上で,射影幾何を見いだす.公理的形式的な方法でもなく,またはじめから斉次座標を導入するのでもなく,それよりもう少し深いところで射影幾何学の精神と射影幾何の真髄を見出してそれをまとめたい.これはこちらの思いであるが,それだけのことが考えられるかどうかはやって見ないとわからない.
下記のコメントをいただいたように,「青空学園数学科に(また)感謝♪」に紹介していただいた.一人でもこういうことをつかんでくれる高校生がいれば,「無償で」といっていただいているが,それでこちらは十分報われる.進路を大学にした高校生にとって受験は社会の厳しさを思い知る最初の壁である.しかしそうだからこそ,それに対する勉強のなかで本当に身につくことがある.夏には大学が開講している「高校生のための数学講座」等もいろいろあるし,それはそれで否定しないが,結局は趣味の数学であり,ごく一部の生徒の数学である.それに対して大学受験には普遍性があり,誰もが直面する.教育という面からいっても,だからこそそこで何か本物の勉強や生き方がつかめる教育でなければならない.また,正面からほんとうに考える方が,受験勉強という点からいっても実は効率もいいのだ.しかし現実の学校での受験教育はそれとはかけはなれている.力のつかない小手先の演習に時間が費やされている.青空学園はこの状況に一石を投じたいと思ってのことなので,この報告はこちらが感謝したいくらいである.
ただこの十年の高校生の変化でいちばん気づくことは,言葉の力の低下,あるいはわかるまでくりかえし考える持続力の低下である.報告の高校生は自分でHPの文章を読みこなせた.読みこめば数学的内容や考える方向性はわかってくる.しかしなかなかそこまでいかない.古人は「読書百遍意自ずから通ず」といった.わかるまで読みかえす意志の力はどこから生まれてくるのだろう.「考え続けてやっとわかった,嬉しい」ということを経験すれば,そこからはそれが力になる.それを伝える教育は可能なのだろうか.数年前「おもしろいほどよくわかる」と題したおろかな参考書がはやった.あの本をもって質問に来る生徒がいて,こちらも読んでみたが数学の内容もずいぶんいい加減だった.あれは「わかった気にさせる」だけで,自分で考えることを教えない.問題が何かを理解すれば人は自分で考える.簡単なことでも自分で問題に直面することが大切で,結果を喋りすぎてはだめなのだ.
7月4日はわが誕生日.63歳である! 今年はセミが遅い.写真はようやく見つけたニイニイゼミの抜け殻.