ノーベル物理学賞

nankai2008-10-08

日本人の三研究者がノーベル物理学賞を受賞した.二人は日本国内の研究機構に属し,一人はアメリカの大学にいる.このような基礎研究は大切だ.戦後,日本が混乱していた時代に湯川秀樹の受賞は人々を励ますものだった.基礎研究が世の中に受け入れられ,そのような研究者をかかえていく余裕がある社会,これが大切だ.戦後から一九六〇年代まで,世の中は貧しかったけれども,基礎研究を受け入れる余裕があった.人文系でも西田幾多郎の『善の研究』が文庫本で出るときには本屋に行列ができたくらいだった.
その意味では,今回受賞した人たちは古き良き時代の研究者だ.今日,博士号はとったけれども定職つけず有期の研究職を渡り歩いている若い人たちがいっぱいいる.数学,物理学,化学,生物学,生理学などの基礎研究分野で,落ちついて研究する環境が,特にこの十数年で失われた.このようななかではつぎの時代を担う研究者がじっくり育つことが難しい.世の中が世知辛くなり,社会に溜がなく余裕がなくなっている.
それでも,今回の受賞に励まされて物理や数学,生物学の基礎研究に向かう若い人が増えることを願っている.前に「進路はよく考えて」にも書いたように,自分の進路を世の風潮や学校の勧めで決めてはならない.自分でよく考え,そのうえで基礎研究を選ぶ人が増えることを願っている.世の中がどうであれ,基礎研究は誰かがやらねばならない.自然科学や人文科学の基礎研究や哲学がもっと世の中で尊重され,いつ目が出るかわからない若い人をかかえていく余裕が必要なのだ.
科学とはものごとの根拠を問うことである.根拠を問うとは、現象を根本において捉えることであり,その根本としたことさえ疑い,さらにその根拠を問う永続運動,これが科学である.理系自然科学だけではなく,人文系諸学科でも同じことである.この意味での科学精神の復興,これは青空学園の願いでもある.
写真は日向で暖をとるヒナバッタ.朝夕、秋の深まりを感じる時節となった.