『革命の侍』を読む

nankai2009-08-28

昨日昼に買った『革命の侍チェ・ゲバラの下で戦った日系二世フレディ前村の生涯』(長崎出版)を夜までかかって読む.奥付の発行日は8月31日,それよりも先に読んだ.なぜ発行日が8月31日なのか.それは今から42年前の1967年8月31日,日系ボリビアフレディ前村がその25年の生涯を閉じた日であるからだ.彼は生まれ育った地ボリビアチェ・ゲバラの下で戦い死んだのだ.ゲバラの殺される40日前のことだった.この本は、フレディの姉マリー前村とマリーの息子エクトルが少しずつ書きため,ようやく2006年9月ボリビアで刊行された.なぜこれほどの時間がかかったのか.長く軍政が続いたボリビアで刊行は不可能だった.ようやく2006年,ペルーのアレハンドロ・トレドに続いて南米大陸二人目,ボリビアでは初の先住民出身となる大統領,エボ・モラレスが「社会主義運動」より就任.これによって本書も刊行されたのだ.本書の帯の表には次のようにある.

「誇りや勇気は何のためにあるのか」 −鹿児島県出身の移住者だった父の魂を継承し、ボリビアで正義のために戦い散った若い革命家の生き様を描く。ゲバラ部隊後衛隊の末期を詳細に記した初の本。

私には実に感慨深い本である.スペイン語から訳したのは29歳の若い松枝愛(まつだめぐみ)さん.訳者あとがきで次のように書いている.

 私は翻訳作業を進めながら、矛盾だらけの社会構造を正そうと革命の戦いに挑んだフレディの生き方に共感する読者が少なからずいると確信した。とりわけ、日常生活の不安定さや、日本と世界の進路の不確かさを、どうにかしたいけれど、どうにもならないと、もどかしく思っている若い世代は、本書から何かしらのメッセージを受け取ることができるのではないだろうか。理想と現実の巨大な隔たりに苦悩する若者は、日本にも数限りなくいる、日本人の血を誇りにしている著者マリーも、日本の若い世代がフレディの真剣な想いや生き方を理解し、共感してくれたらと願っている。

まったく同感である.ボリビアの六〇年代〜七〇年代の四半世紀は,他の多くの南アメリカ諸国と同様,かつての日本の小泉流の新自由主義がさらに軍事政権と結びついた体制で,人々が生きていくにはもっとも困難な時代だった.その後軍事政権は終わったが,長く混乱が続いた.ようやくこの数年,新しい時代が切りひらかれつつある.ゲバラや前村らの闘いは忘れられてのではなく,歴史の伏流として涸れることなく人々の記憶のなかに生き続け,そして今歴史の表に現れつつある.新しい人間,新しい世がひらけつつある.
その点でいえば日本なんかははるかに遅れた古い国である.しかしまた,日本の旧体制が破綻し,すべてを一から原理原則から考え,行動しなければならない時代でもあり,さらに,南米の人々がやってきたように,上に頼らず自分たちで支えあって生きていかなければならない時代でもある.その意味でやりがいと生き甲斐のある時代といえる.本書は,そういう一歩を踏み出そうとするあなたに勇気をくれるだろう.ぜひ読んでみてほしい.写真はアキアカネ
追伸:これを書いたすぐ後にすぐ出た『琉球新報』の書評「『革命の侍』 戦士と家族の愛の記録」に感銘.