『沖縄の海兵隊はグアムへ行く』を読む

nankai2010-04-16

普天間基地移設問題で旧守派からの批判が勢いを増している.またワシントンポストのように「アメリカの栄光」にしがみつきたい勢力も鳩山首相を酷評している.しかし,こういう政治的に立場の分かれる問題では、むしろ「敵に反対されるのはいいことだ」(毛沢東)とどっしりかまえてやるのがよい.政府にそういう覚悟があるかどうかはわからないが.
さて,吉田健正著『沖縄の海兵隊はグアムへ行く』を読んだ.アメリカは日本の金でグアムの基地を拡張し普天間をそっくりグアムに移すのだ.徳之島に作る必要などまったくない.公表されている資料を丹念に読み込んだこの本は,ぜひ皆さんもじっくり読んでもらいたい.この内容はすでに前から宜野湾市が市の公報の中で言ってきたことだ.日本のマスコミは一切報じず,唯一の例外が,2月20日の朝日の記事だ.前にも紹介したが,次のリードで出ていた.

普天間の代替必要? 米軍普天間飛行場沖縄県宜野湾市)の代替施設は、米軍にとって本当に必要か。そんな疑問が沖縄から投げかけられている。根拠は米国防総省の報告書。沖縄からグアムに移転する海兵隊の部隊の一覧表に、国内では普天間にしかいない「中型ヘリコプター部隊」が含まれているのだ。防衛省は強く否定する。(土居貴輝)

先日宜野湾市の井波市長は記者会見しこのことを再度訴えている.政府はこれをふまえているのか.アメリカに出て行ってほしくないのはむしろ外務省や防衛省なのではないのか.思いやりや予算などでアメリカを引きとどめているのは日本の側ではないのか.政府はこの疑問に答えなければならない.あるいは,この期におよんでまだ鳩山首相に「余裕」が見えるのは腹案がここにあって,いろいろやりましたがだめでしたと言えば外務省や防衛省もしぶしぶ普天間の米軍が出ていくこと認めざるを得ない,今はそこにいたる過程だと考えているからなのか.このあたりはよく見守りたい.
ただし,普天間の米軍がグアムに行けばそれでよいと言うことにはまったくならない.アメリカはこの島を今も事実上に植民地支配下においている.ハワイ州のような州ではない.島民はアメリカ政治からも疎外されている.古くからのチャモロ文化の島である.近代のグアムはまさに苦難の歴史である.「16世紀にまずスペインによって植民地化されたグアムは、1898年、米西戦争に勝利した米国に戦利品として割譲されて植民地となり、フィリピンに向かう船の停泊地となってきた。第二次大戦中の1941年12月8日、真珠湾攻撃の翌日に日本軍の攻撃を受け、占領された。島の米国人住民は、攻撃前に米国政府によって退避させられていたが、地元チャモロ人は置き去りにされていた。2年7カ月にわたる日本占領下、チャモロ人は日本軍による強制労働、強制収容所、強制売春、強姦、処刑を耐え忍んだ。米軍は3年半後の1944年7月21日、グアム奪還のために戻った」(アン・ライト「抵抗するグアム」下記参照,より).近年はグアムをグアムの人の手にという運動も起きていると聞く.沖縄からの海兵隊移転がグアムに及ぼす影響についてここにレポートがある.その翻訳がTUP-Bulletinの 『[TUP-Bulletin] 速報828号 アン・ライト「抵抗するグアム」』にある.登録すれば読める.なおこの文書はここでも読める.
今はアメリカという現代のローマ帝国が衰退していく時代である.いずれ沖縄からもグアムからもアメリカは出て行かなければならない.ローマの後の体制をどのように作っていくのかという時代である.これが実はわれわれ自身の生き方の問題でもあることを,若い皆さんはぜひ考えてほしいところである.写真は,はや咲きはじめた山吹.