三月雑感

nankai2011-03-05

三月になった.二月から三月への季節のうつりかわりが昔から好きだった.昔はどの家にも土間と竈があり,畳の上の生活だった.二月の畳の冷たさ,火鉢の炭火にしもやけの手をかざす温もり.そのような冬にも竈に置かれた榊の葉は青く,乾いた風が土間を吹きとおっていった.山麓の冬枯れの木立に虫たちの繭がじっと北風を耐える.光は明るく,風は冷たく,白雲が流れ走る.それが二月だった.三月になればもう新しいときである.三月はほのかに輝く黄緑の世界である.このような季節感は,今は失われたのだろうか.写真は夕日に映える椿.この写真を撮って次のを構えたところで溝に落ちてしまった.カメラも壊れず打ち身もひどくなかったが,膝を少し捩った.休み休み家に戻った.歳なのだから相応に気をつけなければならない.
前期試験が終わった.京大数学はまったく教科書レベルの問題だった.3年前,2009年にやや難しくなった.このとき京大も大学としての方向性を打ち出したのかと考え「京大入試で思ったこと」を書いた.ところが3年後にこの問題である.20年ほど前,1990年前後の京大数学の問題は奥行きもあり問題提起もある出題が多かった.2009年もその方向性があった.また,今年の阪大の問題などは,高校生に一定の水準を提起するよい問題だった.技巧的な難問でもなく,創意工夫の必要な奥行きのある問題は,今でも可能なはずだ.今年の問題にそれは感じられない.
おりもおり東北の受験生が,京大受験中に携帯を利用して問題を送信し解答を求めたことで逮捕された.根拠は偽計業務妨害罪である.しかし,試験監督し不正があればそれを発見し適切に処理するもの大学業務の一環ではないのか.試験監督の難しさは重々理解しているつもりだが,それでも今回のこの問題で京大がしていることは入試の事後処理のうちである.業務が妨害されたとは言えない.まして大げさに新聞の一面トップで報道するようなことではない.不正が発見されたら不合格,それまでである.
私はやはりカンニングにはまったく反対だ.なぜか.問題に向きあったとき二つの道がある.集中して考えるか,カンニングをするかである.何ごとにせよ,どちらへ行くかの岐路に立ったら困難と思われる道を選べ,これが鉄則だ.カンニングはやはり安易な道だ.安易な道を選ぶと必ずあとでしっぺ返しを受ける.この受験生もその意味で大きな教訓をえることになった.入試制度がいかなるものであれ,自分の力でそれを越えていかなければならない.
大学が受験生を警察に告発したことは,教育機関の責任放棄である.大学の独立を放棄して何が「入試制度の根幹を揺るがす」だと思う.これはまた学生自治の問題でもあるのだが,自治会は一体何をしているのだろう.今回は公開掲示板に問題を出したので発覚したが,知りあいに聞くだけならわからなかった.ということは,これまでにもすでにこうやって解答をつくった人もいたにちがいない.この問題に対する大学の対応,数学の問題,これらからつくづく大学としての京大は終わった,と感じる.茂木健一郎さんのご意見に同意する.その一方で,京都という街はもう少し奥深い.あの奥行きの向こうから新しい何かがでてほしい.今年合格できたなら,大学自体が曲がり角にあることを自覚して,既成の体制からもっと自由に考え,そして生きてほしいと思う.
三月になり,春期講習まで比較的時間がとれる.『射影幾何学』(秋月康夫・滝沢精二著,現在数学講座,共立出版,1957,1967年第3刷)の証明に図をつけながら読んでいる.この本は大学2回生のとき買った.去年の秋に第一章を読んでいた. 今は第二章である.いつまでかかるかもわからないし,問題作成の仕事もある.世の動きもいろいろ考えねばならない.自分のためのことなので,進み具合は気にせずにやってゆきたい.PDFファイルは書きかけでも最新にしている.これを続けながら,幾何学パスカルの精神の意味を考えたい.ここには,今の時代にかかわる深い問題があるように思う.いったいこの計画のどこまでゆけるのだろう.
追伸:まさにおりもおり,前原外相の政治資金規制法違反が明らかになった.私は日本国籍のないものから政治資金を得ることもかまわなのではないかと考える.が,とにかく現在の日本の政治資金規制法はそれを違反とし,犯罪であり,受け取れば一定の期間公民権を失うとしている.事実受け取っていた.詳しくは植草一秀さんのブログを見てほしい.小沢氏の問題は「疑い」であるが,前原氏の問題はすでに国会答弁で認めている.
もう一つ,こちらの方がはるかに重大問題なのだが,脱税企業からの政治献金を,その実態を知っているが故に,類似した三社の“社名”“住所”“代表者”を組合せて《虚偽記載した》案件も出てきた.これはミスではない.献金企業の実態を知っていて隠したのだ.マスコミはこちらは追求しない.前原問題を外国人からの献金問題にして,より重大なこの問題を隠そうとしている.しかしこれもまた明白な犯罪だ.
なぜ今これらの問題が一気に出てきたのか.ここには何があるのか.なぜ前原氏は野田・蓮舫・渡辺三人の名前を明かしたのか.何があったのか.これが今後どのように展開するか.よく注目しておこう.
追伸:この問題に関してNICOさんのブログ「従米政治家の黒い関係 当該暴力団フロント企業は独立行政法人から事業を受注か?」の分析がよくわかる.いまはこちらで資料を読みこむ時間がないのでこれを紹介する.