『政府は必ず嘘をつく』

『政府は必ず嘘をつく』(堤未果著,角川SSC新書,2012年2月)を読んだ.これは現実に対する破壊力をもったすごい本だ.筆者の行動力と徹底した綿密な裏付け取材で,現代がどのような時代であるのか,それを明らかにしている.いかにすべきか,何をなすべきか,それを考えるための基礎資料を提供し尽くしている.これが角川書店から出たことにも驚かされる.
例えば,東京都はなぜ東北地方の震災瓦礫の受け入れを多くの反対をおしきって決定したのか.それを解明している.本書165〜166頁に次の記述がある.

 東京都環境局では、この処理をする業者を10月初句に公募している。瓦礫を破砕処分する「建設混合廃棄物、廃機械・機器類」の募集内容には、高度な焼却処理もできる会社である条件がつけられた。
 都の応募要綱には、これら民間処理業者が備えていなければならない処理能力が示してある。可燃部分の残滓物をどのように処理するかを規定しているが、この欄と下の注意書きを見ると、「バグフィルター及び活性炭吹込装置、もしくはバグフィルター及び湿式排煙脱硫装置を備え、1日100トン以上の処理能力を持つ都内の産業廃棄物処理施設で焼却すること」となっている。
 だが、都内に1日100トン以上の処理能力のある産業廃棄物処理施設を持っている業者は1社しかない。江東区青海の「東京臨海リサイクルパワー株式会社」だ。つまり、同社が事実上入札なしで受注することになる。
 では、受註したこの企業にどれだけの金額が流れるのか。
 6月28日の補正予算案で、東京都は災害廃棄物処理対策の運転資金貸し付けとして70億円を計上、7月1目に都議会で成立している。受け入れ予算は3年間で280億円となる見通しで、これは国の一般会計補正予算から出ている。
 この瓦礫処理費用の流れの中で、東京電力の名前は一切出てこない。だが、「東京臨海リサイクルパワー」は95.5%東京電力が出資している子会社だ。
 東京電力は、瓦礫処理にかかる費用を一切負担しなくていいどころか、汚染瓦礫の処理で利益を得ることができ、さらに瓦礫焼却による発電からも利益を得られることになる。
 なぜ、東京都は都民の反対を無視して、瓦磯の受け入れと焼却を強行したのか。そして、入札とはいえ、なぜ東京電力のグループ企業が瓦礫の焼却をすることになっているのか。

と続く.未必の故意の殺人容疑で歴代社長が告発されている東京電力.その東電が95.5%出資する産廃処理企業が瓦礫処理を3年間280億円で請け負う.それを東京都知事が,反対を押し切って決定する.災害を商機にする東電,その片棒を担ぐ知事.政治と経済が一体となって利潤を追い求める.そしてその知事を選ぶ東京都民.見えてしまえば,あまりにも分かりやすい話である.
これは 9.11 とアフガン・イラク戦争以後のアメリカ,3.11 と核惨事以降の日本で一斉に進行している事態の典型である.本書は,このような事実にもとづく本質の暴露にあふれている.ナオミクラインのショックドクトリンをさらに裏づける記述である.
本書は<第1章 「政府や権力は嘘をつくものです」/第2章 「違和感」という直感を見逃すな/第3章 真実の情報にたどりつく方法>で構成され,3.11後の日本の現状を的確にとらえ,その本質,資本の論理そのものであるグローバル企業の内在論理を暴き出している.
しかしさらに私がこれまでここで言ってきたことも考え直さなければならない問題も提起している.ことの本質は日本とアメリカという国家と国家の問題ではないということだ.176〜177頁に次の記述がある.

 「グローバル経済が支配する世界の中で、今後ますます各国の憲法や法律、規制といったものは意味を失ってくるでしょう。国の介入は、小さければ小さいほど利益が上がる。グローバル経済の最終ゴールは、規制ゼロの”統一世界市場”だからです」
 ルークの言う通り、グローバル企業が世界に市場を拡大するほどに、国境は意味を持たなくなる。先進国で国内の労働者が失業する一方で、年金や生活保護など国の負担は重くなっていく。第三国はますます資源を奪われ、通貨は効率よく統一されていくだろう。その時「国家」という形は、いったいどうなってしまうのか。

確かに.ではそのうえで,我々はどのようにすればよいのか.それについてもアルゼンチンの経験や,国際的な人々のつながりについての示唆に富む言及がある.希望は失われてはいない.201頁に次の記述がある.

 顔のない消費者から、名前や生きてきた歴史、将来の夢や健やかな暮らしを字にする権利を持つ「市民」になると決めること。失望した政治を見捨てる代わりに、誰もが人間として尊厳を持って生きられる参加型民主主義の枠組みを作るために自分の行動に責任を持つこと。
 人開が太古からの歴史の中で繰り返し生み出してきた、数字で測れない価値を持つ数々の宝を守ることは、私たちがより人間らしく生きられる社会を作ることと同義語だ。
 もうひとつのグローバリゼーションは国境を超え、この歪んだシステムの中、さまざまな形でバラバラにされた私たちを、再びつなげる力になるだろう。

経済原理から人間原理への転換,私がここで言ってきたもう一つのことは,このように希望の原理として述べられている.私の講釈はこれぐらいにしておこう.この本から受けた問題提起については,これからよく考えまとめてゆきたい.これは,とりわけこれからの人生を否応なくこの日本とともにおくらねばならない若者の必読の書である.最後にアメリカの占拠運動の人の言葉を紹介しよう.「真実にたどり着く方法? 手始めにTVを消して自分の頭で考えはじめることよ」.これはぜひ実践しよう.いずれにせよ,各自本書入手して一読されんことを.