人々の東アジア共同体を

中国と韓国とそして日本と,東アジアの3国で当面誰が政権を担うのかが確定した.一言でいえば旧体制が勝利したということである.3国に共通していることは,政権の中心にいる者がそろって2代目3代目ということだ.日本の安部首相はいうまでもないが,確認すれば,父方の祖父の安倍寛(元衆議院議員),母方の祖父の岸信介(第56・57代内閣総理大臣),大叔父の佐藤栄作(第61-63代内閣総理大臣),父の安倍晋太郎(元外務大臣)というわけである.韓国大統領となる朴槿恵(パク・クネ)はこれまたあの60〜70年代にかけて政権を握った朴正熙(パク・チョンヒ)元大統領の娘である.そして中国共産党総書記の習近平はいわゆる太子党のひとりで,父は習仲勲(元国務院副総理)である.これはそれだけ旧体制=既得権益層が固定化され,新しい人材が入ってこないということを意味している.
中国新体制の特徴は,人民解放軍のいわゆるタカ派の台頭と軍・産・党複合体の形成,そして民族主義への傾斜である(人民新聞民族主義に傾斜する中国共産党」参照).日本の自民党政権とはすでに指摘してきたように,米・官・業・政・電利権複合体の政治部であり,これまた排外主義,民族主義を標榜している.韓国の朴槿恵候補は選挙中,女性初の大統領などを前面にだし新旧の保守層をまとめたが,基本は李明博政権の財閥規制緩和政策を引き継ぐ.
日本ではさっそく自民党日本郵政の人事に介入している.小泉郵政改革の基本は郵政にある国民の金融資産を自由化しアメリカ資本に売り渡すことであった.鳩山政権下,亀井郵政担当大臣のもとでそれに歯止めがかかったが,そのときの人事に介入.この人事そのものは天下りの典型だが,問題はそこにはない.郵政のトップを金融資産を売り渡すことに抵抗しない人間に変えようとしている.日本の選挙結果を今いちばん歓迎してるのがアメリカ金融資本である.彼らは日本の国民資産を吸い上げようと虎視眈々と待っていた.吸い上げるだけ吸い上げ,その後に経済危機を起こしてそのツケを国民に押しつける.これが現在のEU金融危機の意味であるが,このままゆけば日本もそのようになる.
そして3つの政権はともに原発推進である.中国も韓国も新規の原発を建設する.そして国内の富をさらに偏在させ格差をおし広げる.中国の環境破壊,民族間格差,沿海部の一部成金と農民との格差はまったく酷い段階で,これに対する人々の怒りとそれによる紛争は,1994年には70万人であったものが,2011年には公式数字でさえ600万人に激増している.習体制のもとでこれがさらに激しくなることはまちがいない.
第二次世界大戦の後に東アジアに生まれたそれぞれの政治体制が,この間の一定の揺れ動きの後に復活した.新自由主義資本主義が,それぞれ新しい形の中でもう一段推し進められることになった.今,歴史がその段階にあることを確認しよう.この政治体制のもとで,生存権や労働権さえ自己責任の名のもとに投げ捨てられ,人間の尊厳は打ち砕かれる.しかしそれで済むということはない.それで済まさせるものか,である.人々の抗議行動や抵抗運動もまた深く大きく進む.中東にはじまった変革運動は,相互に響きあい南欧からアメリカに広がった.そしてこれは日本,中国,韓国でもそれぞれの条件の下で新しいうねりとなるにちがいない.経済原理に対して人間原理を.そして今こそ,生活する人々のつながりをもとにした東アジア共同体を.困難な時代ほど,理念をもって生きよう.