ある賀状によせて

nankai2013-01-01

 明けましておめでとうございます
 今年来た年賀状の中で,いちばん注目したのは次の1枚だった.阪神地震の前まですんでいた家の紹介と,その家が部分壊したのでその売却と,新たに立て直す土地の紹介と,これらを手がけてくれた地元の周旋屋のAさんがいる.そこを定年で退職し,今は子会社の社長に納まっている.そのAさんが欠かさず年賀状をくれる.会社の印刷した賀状にボールペンで次のように書き込みしてあった.「お金をジャブジャブ刷って景気がよくなる年になるのですかなあと思います」.顧客への儀礼的な賀状なので控えめであるが,彼が安倍内閣景気対策に疑問をもって,一言書かざるを得なくなったことは明らかだった.長年地元で周旋の仕事を続け,あちこちの土地のこともよく知り,顧客を大切にして信頼を培って,それで色々客の紹介もされてやってきた人が,円をジャブジャブ刷ることへの疑問を持っている.テレビや新聞は安倍内閣景気対策を肯定的に報道するが,中小企業の経営者はそれを疑っている.
 折しも,アメリカで財政の崖を越えるための合意ができたと報じている.もし財政支出削減案の合意に至らなかった場合,2013年1月から政府の歳出が法的に強制的に減らされることになっていた.アメリカ経済は,政府の歳出がなければ立ちゆかないところまで弱っている.今回の合意とは,実質的には,ドルをそれこそジャブジャブ刷って政府の支出にあてることへの歯止めをはずすための民主党,保守党の合意である.政府が必要とする金がもう底をついたので,赤字分ドルを刷ってそれで支出しようということである.安倍内閣も円を刷って公共投資である.こうして日本とアメリカと,円とドルを刷り続ける.確実に円とドルの価値が下がる.もはや日米ともその歯止めはない.
 アメリカはこの間,連邦銀行がドルを刷り続け,金あまりが加速され,余った金が株式市場に入って株価が上がり,それをマスコミが「景気回復の証しだ」とはやしてきた.実際の雇用環境が悪化しているのに,見かけ倒しの景気回復が演じられてきた.とくに大統領選挙の前は酷かった.日本でも,アメリカと同じ金融緩和策をやると宣言した安倍自民党が勝った.その後,株価が急上昇した.新聞テレビはそれを景気回復への期待だとはやしている.しかし,Aさんが肌で感じてわかっているように,期待しているのは金融界や大企業で中小企業は疑っている.実際これはドルとアメリカ国債,円と日本国債の長期的な信用を揺るがせる危険な策である.日本でも,見かけの景気回復と裏腹に,雇用環境はますます悪化する.Aさんが疑問を呈するとおりである.このままではドルより先に円と日本国債の信用失墜が起こる可能性がある.2%のインフレとは,2%の賃金切り下げと2%の年金カットそのものである(正確には 2/1.02 %).しかも,実体経済の回復でインフレになるのではなく,円を刷ってそれを誘導するなら,それはバブル経済どころか,バブルをかき立てているだけのことであり,2%のインフレに終わらない.そこに待ち受けるの円と国債の暴落である.
 Aさんのような安倍内閣の経済対策に疑問を持つ人に,対案を示せるか.それは小手先の人気とり政策ではなく,大きな歴史動向の洞察をふまえて,今どのように経済を運営するのか,という政策でなければならない.地元に根をはってやってきたような中小企業の経営者は,先日書いた二つの立場から言えば立場一に属する.1%には入らない人である.しかし経営者という立場から,投票行動では立場二に投票することが多いにちがいない.その人らも,安倍内閣の経済政策に疑問を持っている.経済は,人間が人間としてこの地球上に生きてゆくための手段であって,目的ではない.人間らしい生活を皆がおくれることこそ第一である.富の再配分を行い,格差の是正と地方の再建をすすめる.この政策の訴えは,しっかりとやるならばAさんに届く.
 誰がそれをやるのか.もっとも,考えれば,Aさんは金をジャブジャブ刷ることの意味を知っていて,むしろこちらにそれを考えさせようとあんなことを書いたのかも知れない.それも含めて,大乱世を予感しながら色々考えさせられる年始であった.今年もどうかよろしくお願いします.
 写真は一日夕方,参拝者の並ぶ越木岩神社