若葉の季節に

 白木蓮もすでに散り,花の後には実が青く,そしてそれを囲むように若葉がみずみずしい.まだ気温は上がらないが,どこかに初夏を思わせる時節となった.この家に住みはじめたころ,大きな甕を手に入れ,そこに水を張り,魚を飼ってきた.この数年はメダカである.20匹以上のメダカが泳いでいる.冬の間は甕の底に沈んでじっとしているが,春になると上がってくる.まるまるとして卵を抱いたのも泳いでいる.産み付けられた卵は別の水槽に移さないと,孵っても成魚に食べられてしまう.↙ヒメダカは目立つけれど,普通の黒メダカはもっと多い.
 ようやく問題作成が一段落し送信.それから自分のウエブサイト,青空学園数学科の元原稿などの整理をした.これをはじめたのは1999年の夏,間もなく14年である.訪問者のカウンターも間もなく100万である.玄関ページの「青空学園数学科」にカウンターを置いているが,はじめの頃はある人がどこかを読んでまたここに戻るとカウンターが1つ上がるようになっていた.それでは実際の訪問者の数にはならないので,数年前,内部から玄関に戻ると,「青空学園数学科書庫」に戻るように変えた.だから100万は実際の訪問者の数である.はじめから書庫の方から入る人もいるようなので,実際はもっと多いかも知れない.
 このサイトのすべての元原稿はTeXという組み版命令の埋め込まれた数式処理用のテキストファイルである.これからHTMLファイルとPDFファイルを作り,HTMLで公開し,PDFファイルが入手できるようにした.その元原稿を,著作権はすべて青空学園数学科にあることを明示した上で,再配布および営利のために用いることは禁じるが,学習と教育活動に無償で用いる場合には,全体および一部を自由に利用してよいという条件で,CDRに焼いて実費で配布してきた.サイトの更新のたびに,CDR用のフォルダも更新するのは,手間ではあるが,そうしてきた.これまでおよそ300枚のCDRを配布した.
 サイトを作り始めたころ知ったのであるが,TeXとその関連ソフトも無償なら,これをHTMLファイルに変換するlatex2htmlも無償,それが動くlinux 自身,多くの人の無償の努力で発展してきた.ウインドウズをつくるマイクロソフトなどは,OSを本当に高く売りつけ,大もうけをしてきた.その一方で,このように無償のすばらしいソフトもまた多くある.オープン・ソース,つまりはプログラムそのものの公開,それに感銘をうけたこともあって,青空学園の元原稿のすべてを,無償で公開してきた.CDRの申し込みに一言書いてくださる方が,少なくない.この一年ほどに頂いた言葉の一部を紹介.

  • 微分方程式で検索していて、あなたのサイトに出会いました。社会科教育について見直したいと考え、稚拙ながら、サイトを公開しています(「物語で読み解く社会科入門」)。いろいろ参考にさせていただきます。数学の美しさは頭脳の中か自然界にあるのか、私の数学についての関心事です。
  • 三線座標を調べていましたら、貴サイトが見つかり、青空学園のその姿勢に同感しました。インターネットを介さないで勉強出来るCDを請求いたします。
  • 大学での数学を暗記にたよる方法ですごしてしまったため、貴サイトで勉強させていただいていました。暗記ではなく、数学の理論的背景を勉強できるサイトを作っていただいてありがとうございます。
  • 先生、こんにちは。自分は20年前に高校生だったような年で、機械工学科を卒業しているのですが、未だに高校数学を克服できていません。このペースでは、あと10年はかかりそうなので、申し込みを決心しました。教員や受験生ではありませんが、よろしくお願いします。
  • 山形の小さな個人塾で、何とか難関大学にも現役合格してほしいと奮闘しています。いつも「青空学園」の内容に感動し、また励まされています。私も「青空学園」の様な本物の数学が教えられるよう努力し続けたいと思います。

 また掲示板でも今年は次のような言葉を書き込んでくれる人がいた.

  • 今回、無事一橋大学商学部に合格することができました。この一年間、高校数学の方法や数学対話と格闘しました。凡人の僕はかなり苦戦しましたが、11月頃から効果が出てきたと思います。振り返ると、このサイトに出会えたことが大きかったと思います。ありがとうございました!
  • 南海先生、はじめまして。僕はこのサイトを利用していた受験生です。青空学園で「根拠を問う数学」の大切さを初めて知って、受験勉強に取り入れてきました。青空学園は教科書や参考書よりも利用回数が多いです(笑)。そして昨日、志望校に合格しました。

 無償で公開とはいいながら,このような一言を得るのだから,そしてそれに励まされているのだから,得るものの方が多いともいえる.私は,前にも書いたが,一人一人の人間の力は,どんなことであれ,個人の持ち物ではない.少しでも世に循環させてゆくようにしなければならない,と考えている.実際,私の書いてきたことの多くは,かつて高校教員をしていたときに,あるいは受験生に教える中で,生徒たちから学んだことなのだ.だから世にかえす.できるところから,それを実践する.日本のどこかで,誰かはわからないが,ここで勉強している人がいる.そして何かが伝わってゆく.それが文化ということだ.
 さて,3年越しの『幾何学の精神』は,この数ヶ月動いていない.そろそろまとめなければならない.そして『高校数学の方法』は,8版目の改訂をしたい.最後の改訂のつもりでやらねばならない.等々,自分ではじめたことごとが10年たって,いろいろ手を入れたり,仕上げたりと,やるべきことが一杯という状態である.頭の働くうちは続けよう,と思いながら,人生酔うこともまた大切で,本当に一日がはやく過ぎる.