この国は狂っている

震災のあと」という自立した報道者によるページがある.今年の3月,次のような報告があげられていた.2013.3.20 福島県飯舘村 「大変なことが起こっているよ」である.これは飯舘村で今も馬を飼う細川牧場の細川徳栄さんを,「震災のあと」プロジェクトのメンバーが訪ねた記録である.
細川牧場は,飯舘村の北西にある.「飯舘村が3つの避難指示区域に再編されました」という村の広報によれば,飯舘村臼石は,居住制限区域にあり,避難指示解除準備区域の隣りにあり,全体としての線量は村では低い方であろうが,それでこの現実である.細川さんは会うなり「この国は狂ってる。大変なことが起こってるよ」と切り出したという.この報告について,ここで語ることは出来ない.2013年3月の現実である.是非,しっかりと見て欲しいと思う.
ここに写っている白いミニチュアホースは,一週間後の3月末に死んだ,とある.この馬の表情は,日本の悲惨をじっと見つめているように思われる.日本列島弧の政治と生活の,見かけの下にある悲惨を見つめている.そのように思うのは,私だけであろうか.
科学者の立場から,小出裕章さんが改めて,福島の事故は「人間の手に負えない事故であることを再認識すべき」(人民新聞1481号所収)と語る.そして「溶け落ちた核燃料の取り出しは不可能でしょう」と断定する.実際それは不可能であり,この先,途方もなく長い時間,核汚染物は環境に放出され続ける.事故の状況は東電にもわからない.つまりこの事故はもはや人間の手を離れている.この冷厳な事実に向きあわなければならない.そして何をなすべきかを考え,示し,実行しなければならない.ところが為政者は,「事故終息宣言」を出し,再稼働に向けて走り出し,そしてまた,原発の輸出を目論んでいる.まさにこの国は狂っている.
アベノミクスで新聞やテレビはあいもかわっらず賑やかである.しかし,もともと日本経済が衰退してきていたのは,一つには格差が広がり社会としての購買力が小さくなり,作っても売れない,その結果としてのデフレであった.もう一つは,新しい技術的枠組みを生みだす力が,もともと弱かったが,情報技術の時代にその弱点は決定的になり,国際的な競争力が衰えたのである.これは小学生から大学生まで,教育の力の衰えの反映であり結果でもある.
ところが,為政者はますます格差を拡大する方向にもっていきながら,そして子どもから自由に考える余裕を奪いながら,円を印刷し続ける.それがどのような結果になるか.少し考えればわかることである.すでに国債は暴落しはじめているが,このままでは金融大崩壊は避けられない.が,大手新聞は株価がどうのこうのの記事に明け暮れる.まさにこの国は狂っている.
一国にこれだけ外国軍の基地なある国などまずない.しかも,その駐留費用を「思いやり予算」として,提供する.琉球新報が2012年3月「思いやり予算 被災地の復興に充てよ」と社説を書き,

日本が負担する駐留米軍経費は他国に比べ、群を抜いて高い。だが、米国は中国などの軍事情勢を挙げて増額圧力を強め、在日米軍再編見直しに絡む経費負担増も求めかねない。11年度から15年度までの期限で1兆円近い思いやり予算が国会承認されたが、再交渉を求めたい。

と主張するが,これはまったく無視される.カネがない,消費税だといいながら,アメリカにはこれだけの金を提供する.それが日本の現実である.まさにこの国は狂っている.
それに対して,ボリビアには希望がある.ボリビア大統領、米国際開発局の追放を発表 ! 南米はながくアメリカの支配のもとに苦しんできた.その苦難の歴史の上に,ようやくにこの10数年,新しい時代の動きが出てきた.ボリビアは世界的にも貧しい国であるが,その貧しさの根本は,西洋の植民地収奪と戦後アメリカの新自由主義経済の支配の結果である.米国際開発局とは要するに,アメリカによる新植民地主義支配の出先機関である.ボリビアの歴史はここに詳しい.
ボリビアはこの数年,多国籍企業に乗っ取られた企業を,国有化してきた.その仕上げとしての米国際開発局追放である.ボリビアエボ・モラレス大統領はメーデーの5月1日ラパスで,結集した労働者を前にして「ボリビア人民と政府に対する陰謀」を理由に,米国際開発局(USAID)をボリビアから追放すると発表したのである.なにより国家の尊厳を取りもどす,これがモラレス大統領の政治である.
明治以来の近代化西洋化の基本的な矛盾と,そのうえにできた戦後政治と戦後社会のあり方,ここに国の狂いの大元がある.日本が正気を取りもどし,ボリビアに一歩でも近づけるまでに,一体どれくらいの時間と,人々の苦しみと悲惨が必要なのだろう.いや,そのように人ごとのようにいうべきではない.この国の狂いは,われわれの世代の責任でもある.
追伸:写真は最近出会ったムギワラトンボと矢車草など初夏の野の花.この生物の多様性は日本列島弧の宝である.国は狂っても花は咲く,といいたいが,狂い続けると花も枯れ果てる.