入院半ばに

 およそ6週間になりそうな今回の入院,半ばが過ぎた.今日は実家で私の父の二十三回忌をした.それで病院に外出許可をもらい,朝から車で宇治に帰省.妹たちや子どもたち孫らと集い,お寺さんの読経の後,それぞれが持ちよった昼食を皆でいただき,一緒に過ごしてきた.そして先ほど病室に戻った次第.
 入院生活というのは,おのずといろいろ考えることができるものだ.もちろんそれは,取りあえずはステロイド療法が効いて,肺の調子そのものがずいぶん良くなっているのが,基礎なのだが.
 11月25日には,来年の2月12〜14日に京大数理解析研究所の研究集会としておこなわれる「教育数学の一側面−高等教育における数学の規格と−」の自分の予稿を仕上げて送ることができた.これは入院して最初の週,酸素補給をつけながらだったが,改訂版までなんとかできた.この研究集会は3年前にも開かれ,こちらも参加して,副代表の蟹江幸博さんと再会した.そのときのことは「人と会う(続)」に書いた.その次になる今回,蟹江さんから「1時間やるからお前も喋れ」とこちらにもまわってきた次第.その予稿である.先のページを下にたどれば読める.この研究集会は開かれていて誰でも参加できる.教育数学に関心のある方,予稿などを読んで議論したい方,参加できる.
 入院したとき,この日までに戻れるかなということが頭をよぎったが,何とかこの頃には討議に加われるように体調を戻したい.
 それから12月6日まで10日ほどかけて,青空学園の全サイトの整理をした.青空学園の各ウエブサイトは,いわば私の居場所,書斎であり庭のようなものである.十数年前に作ったままのところもあり,それらを整理整頓したいと考えながら,なかなか時間がとれなかった.ようやくこの機会をとらえて,点検することが出来た.この枠組みと場所で,これからやってゆけばよい,そう考えることが出来た.
 こうして,入院生活前半もそれなりに有意義に過ごせた.入院の後半は,このサイトの場で日頃の営みとして積みあげてゆくことを整理整頓して,人生の限られた時間をもう少し意味あるようにしてゆかなければならない.またこれからは,日常生活への復帰に向けて,リハビリというか,体力もつけなければならない.なにせ,今日,久しぶりにズボンをはいて,ガレガレに痩せていることを再認識.足の力も弱っている.階段を昇るのはまだつらい.病院の屋上には小さな庭園があり,その中に長方形の道がある.この2,3日,そこを5周歩いてきたが,月曜からは10周しよう.
 などなど考えているところに,秘密保護法成立のニュース.どのようになるか,状況を追いながら,この問題についていろいろ考えていたのだが,それを7日に急いでまとめてみた.以下は走り書き,読みかえして手を入れてゆきたい.
−−−−−−−−−−−−−−−
 2013年12月6日,「特定秘密保護法案」と呼ばれる国家秘密法が成立した.国会会期の終盤になって,多くの国民が反対に立ちあがり,連日,各地で反対集会などが開かれたが,衆院参院で多数を占める自民党公明党は,それにかまわず採決を強行した.
 最初に確認すべきは,秘密保護法は基本的人権に照らして不当である,ということだ.われわれはたとえこの法が施行されても,従来どうりに基本的権利を行使する.この法律は現憲法と矛盾し,安部政権がめざす改憲草案の趣旨に一致する.
 さてこれは,自民党政治の強さなのだろうか.そうではないと考える.結論として言えば,これは戦後の自民党の政治の最終局面で現れた現象であり,その基盤の脆弱性を露わにするものである.
 おそらく安倍首相は,半世紀前,日米安保条約を改定した祖父でもある岸信介首相の姿があったのだろう.安保条約改定の後,日本はアメリカの核戦略のもと,原発を導入してゆく.反対運動は,そのようなアメリカに従属したあり方を拒否するものであり,全国で激しく闘われた.しかし自民党は「声なき声」は自民党を支持していると,改定を強行した.
そして,岸首相の後を継いだ池田勇人首相は,「所得倍増」を掲げ,高度経済成長路線をとる.それによって国民をひきつけ,安保闘争での痛手を回復,その後,長期にわたり自民党政治を継続した.
 今回もまた,与党議員は,いわゆるアベノミクスで恩恵を受ける多数(本当は極少数)の国民は,声をあげないけれども自民党公明党を支持していると考えている.「朝ズバッ」で自民党中谷元氏はサイレントマジョリティは「秘密保護法案」を当然と考えていると発言.本当にそうだろうか.私はまずそれ自体が事実でないと考える.
 さらに,半世紀前と今日では,日本を取りまく客観的状況がまったく違っている.半世紀前は,帝国アメリカは戦後世界の覇者として強大であり,その目下の同盟者となり,経済復興に専念することは,敗戦国日本の支配層にとって,いちばん利益の大きい選択肢であった.そして,敗戦から15年,ようやく社会の基盤を回復したときに,そこから高度経済成長に移ってゆく現実の条件があった.
 アメリカはその後,ベトナム戦争に敗北する.その結果,ドルは金本位制を離脱,その後金準備の制限を解かれたドルは,軍事力と政治力を配景に,資本の論理をそのままに弱肉強食の経済運営を続けてきた.それが2007年になって恐慌となり,その後は実体経済とは関係なくドルをひたすら印刷し供給.見かけだけ経済を復興させてきた.
 しかし,このような政策は必ずさらなるドルの弱体化を招く.2014年には再び恐慌が再来,ドルの価値は大きく下がると見ている.アベノミクスは,このアメリカにならい,あるいは押しつけられて,円の価値を守ろうとする従来の日本銀行の基本政策を投げ捨て,円を過剰に市場に供給し,それによって一時の経済回復を演出しようとするものでしかない.
 そしてここに2014年からは消費税増税である.アメリカ経済のメッキがはげるとともに,日本経済もまた失速する.したがって,半世紀前のように,経済を拡大し,その利益を国民にも配分することによって,今回の秘密保護法を糊塗することは出来ない.その意味で安部政権は,岸政権の茶番政権である.
 アメリカにとって,日本の金融資産は,恐慌を少しでも先延ばしにする貴重な資源である.日本政府にNSCや秘密保護法を急がせたのは,これによって,郵政などに蓄えられた国民の金融資産を密かにアメリカの産軍複合体とその金融資本に差し出すことが,一つの目的であるからだ.
 安部政権は,客観的な条件を無視しても,再びの軍国主義をめざしている.国民主権を基礎とする現在の日本国憲法改定し,全体主義的な旧憲法の復活を,その基本政策目標としている.これが,安部政権の側からする,NSCや秘密保護法を制定した意味である.
 それは,日本の官僚を中心とする旧体制=原子力村の意志であり,それを実行しているのが安部政権である.この法によって,日本の公安警察は,これまでやってきた事々に,いわばお墨付きをもらう形になる.今後,日本国内は警察国家のようになってゆく.
 しかしながら,世界は多極化しており,日本が再びの軍国主義を推し進める余地はない.2007年,当時の安部政権に対して,前にやっていたブログで「ヤルタ・ポツダム体制に回帰するアメリカと孤立する安部政権」と指摘したことがある.現在は,アメリカ自体に,産軍複合体の勢力と多極化の現実に対応しようとする勢力の矛盾があり,ヤルタ・ポツダム体制と言うべき中国との共存をめざす勢力が優勢である.
 それに対して安部政権は,世界でただ一つアメリカ産軍複合体の政権そのものであり,日本と中国の対立をあおる.しかし日本と中国は経済的にはもはや離れがたく結びついており,このように対立をあおれば,政治と経済はますます乖離するばかりである.
 今回の秘密保護法制定の過程で,野党やマスコミは,自らのアリバイを示しておくために,反対した.しかしそれは結局のところ,本気ではなかった.野党が本当に反対するのなら,山本太郎議員のようにもっと皆の中に出て来て,自分の見解を示しながら,反対運動の先頭に立たなければならない.しかしそうではなく,野党は議会の中に閉じこもり旧態依然とした小手先の議会政治を行ったに過ぎない.
 それに対して,今回,安部政権の全体主義軍国主義を見ぬいた多くの国民は,秘密保護法に反対した.孫子(まごこ)を戦争にやるな,この思いが参加者の共通の思いであった.この力は大きい.最後に歴史を決めるのは,このように立ちあがった人々の行動である.秘密保護法制定に反対する運動の中で,このような歴史主体が形づくられはじめた.これまで積みあげられてきた反原発運動と繋がって,裾野を広げてゆく.
 ここに,未来がある.主権者としての国民の手で,安部政権を倒す.その主体が今日の情報技術の下で,実際の組織としてどのように形成されるのか.この試行錯誤が続く.
−−−−−−−−−−−−−−−
 「田中龍作ジャーナル」の「3年後には政治をひっくり返すぞ」などを読むと,新しいことがはじまっているの知って,やはり嬉しくなる.
追伸:SPYBOYさんの12月77日の記事にも励まされた.早く私も街の中へ出て行きたい.気は少し焦るが,ここは落ち着いて療養第一.