暗黒支配の日本

追伸5/4の写真:夙川上流の木立.夕日を浴びてじっと葉裏にとまるモンカゲロウ.優雅でもの悲しいはかなさ.
DAYS JAPANという雑誌がある.いつも本屋で買う.昨日5月号を買った.この雑誌はもとより報道写真が中心であり,今号は「DAYS国際フォトジャーナリズム大賞」の特別号であるが,私はそれらの写真とともに,あるいはそれ以上に,雑誌に載った文章に,ひきつけられ,そして考えさせられた.まず,「袴田さんが再審決定に/検察が即時抗告/自由と命を奪うな!」と題する高杉晋吾さんの一文.その冒頭と末尾.

 冤罪は日本国国家を支える支柱である。政官財による国民差別としての冤罪があればこそ、日本は立国している。これが日本国警察、検察と癒着するマスコミの存立基盤なのだ。このことを私は、元プロボクサー・袴田巌が逮捕された後に発表したルポ、『地獄のゴングが鳴った』(三一書房、1981年刊)で描いた。…
 私は、同胞とともにこのような暗黒体制は即時打破しなければならないと思う。2014年3月31日の検察の「袴田事件」再審決定に対する即時抗告は、このような暗黒支配の体制を、権力、マスコミをあげ、断固として維持しようという宣言である。私たちは国民をあげて怒りを表明し、こういう支配を打破すべく、行動に移ろう。

1981年,高杉さんの本が出た頃,自分はこの冤罪事件のことをどれだけおさえていただろうか.教員になって7,8年である.あの頃,もう一つの冤罪事件である狭山事件については知っているつもりであったが,「冤罪は日本国国家を支える支柱である」とわかっていただろうか.高杉さんは30年前に,日本の支配体制の暗黒を暴いておられたのだ.
次に「インド・イディンタカライ村から福島へ」と題するスンダラジャン・ゴマティナヤガムさんの一文.ロシアの支援で建設されたクダンクラム原子力発電所(総出力200万キロワット),それは,インドの最南端,コモリン岬から東に30キロ余りにある.1988年,当時のゴルバチョフソ連共産党書記長が建設協力に合意して26年.2011年12月に予定されていた商業稼働の開始が,福島の事故を受けた漁民たちの反対運動で未だ稼働していない.2012年,9月上旬には抗議デモに警察が発砲し,1人が死亡した.隣国のスリランカもインドに安全対策の徹底を求めている.その闘いの経過は,No Nukes Asia Forumの中の記事などに詳しい.
反対運動の中心になっているのは,約1万2千人が住むイディンタカライという漁村.2004年末のスマトラ沖大地震津波で被災し,今も約2千人が原発から1キロ程度の近接地にある「ツナミナガル(津波の村)」と呼ばれる特設住宅で暮らしている.その地で原発の危険性を訴えてきたのがスンダラジャン・ゴマティナヤガムさんである.

 今年2月に国際環境NGOグリーンピースの招きで日本を訪れた際に受けた歓迎は、言葉では語り尽くせません。出発前にも、津波の被害にあった地域を訪れるということで、日本領事館はビザ取得の手数料を免除してくれました。しかし、日本に到着し友人たちと話すと、その行為が、単なる偽善だったということに気づきました。日本政府もまた、他国の政府と同じように、市民を置き去りにして成長しようとしているのです。政府にとって、成長は経済のためであり、そこに暮らす自国民のためではないのです。こと原子力発電においては、政府は繰り返し市民を欺いてきています。
 しかしながら、日本の市民は正しい方向を見つめています。彼らは政府にとっての成長とは何だったのかに気づきました。私は広島の核爆発から福島原発事故までを体験した日本の市民が、いま見せた立ち上がる力に心打たれます。彼らは温かく、辛抱強く、白分たちが信じるものを曲げない強さを備えていました。それは、イディンタカライ村の私の仲間たちと一緒でした

この人が言う「経済から人間へ」は,私などが言うよりはるかに説得力がある.同時に,こういう声がいろいろなところから,普遍的に聞かれるようになった来たことに,時代の課題を再度確認することができる.そして,もっとも大切なことは,「仲間たちと一緒」という,この言葉である.国際的な今日の支配の在り方に異議を唱え,そして闘うもの同士,実際に出会うことはなくても,確かに繋がり結ばれている.原発再稼働を目論む彼らがおしつけ宣伝する「絆」とはまったくことなる「きずな」がここにはある.
そして,広河隆一編集長の編集後記である.チェルノブイリ現地を再訪し福島と比較した事実を伝えるこの一文は衝撃である.

 2011年の福島原発事故が起こる前月にチェルノブイリ取材をして以来、3年ぶりに現地の取材をした。日本で使用しているホットスポットファインダーという測定器を持参した。高濃度汚染地区の立ち入り禁止区域で、材が廃墟になった場所で測定したが、福島県郡山市福島市の居住地より低い数値が出て、私は絶句した。チェルノブイリでの基準がおかしいのか、日本の基準がおかしいのか。自分がおかしいのか。村が消えている場所で何度も測定し直した。誤差を加味してもおかしい。…
 4月1日、原発から20キロ圏内の田村市都路地区の帰宅が開始されたが、その基準は3.8マイクロシーベルト毎時だ。これは年間20ミリシーペルトという基準である。福島市の学校施設利用基準も同じだ。ここまでは大丈夫というのだ。チェルノブイリ原発では人が住めないとして地下に埋められた村と同じ汚染を示すところに、日本では子どもも含め人々が住まわせられようとしている。…
 取材中さまざまな人々にDAYS2013年4月号の表紙を見せた。同じ種類の機械で測定した福島市の汚染地図だ。日本の放射線管理区域を表す0.6マイクロシーペルト毎時を超すスポットが大量に記録されている。ここに人が住んでいると言うと、これを見たウクライナ環境相も、ペラルーシ緊急事態省高官も、医師も保養の専門家も、言葉を失った。彼らにとってはありえない話なのだ。いつの間に私たちは国際的に危険だと言われている場所を安全と信じ込まされてしまったのだろうか。IAEAICRPの洗脳に国中が冒されていったのだろうか。
 ウクライナの小児甲状腺がんの権威者たちが言った言葉が頭を離れない。「私たちがチェルノブイリで事故直後の対処にいかに失敗したかを、日本の専門家は指摘してきたのに、なぜ福島で同じ間違いを犯したのだろうか。」

これはまさに高杉さんの言われる「暗黒支配の日本」の現実である.チェルノブイリの事故から5年で旧ソ連邦は崩壊した.崩壊させたのは,核汚染の悲惨な現実が表面化したときにおこった各地の暴動と,そしてその一方でのアフガン戦争でのソ連邦の疲弊である.国際的な金融資本とアメリカ,日本,EUを通した支配体制は,旧ソ連邦よりは,ずっと手強い.しかし,このような見かけの手強さにかかわらず,現実に資本主義はその終焉の段階に入っている.
資本主義を終わらせるのは人間である.経済成長を第一とする政治と.自分たちの日々の暮らしをかけて闘う人々の力である.1933年生まれの高杉晋吾さんが「同胞とともにこのような暗黒体制は即時打破しなければならない」と言われる.それに応えるために,なしうることをひとりひとりから.DAYS JAPANをよんで,このようなことを考えた次第.