新しい風と去りゆくべきもの

沖縄県知事選挙では,投票締め切り直後に翁長雄志氏の当選が確実になった.琉球新報の速報沖縄タイムスの速報.一部には翁長雄志氏が,埋立申請承認取り消しを明言しないことをもって,埋立申請承認取り消しを公約に掲げた喜納昌吉氏を応援すべきだという意見もあった.しかし埋立申請承認取り消しはあくまで辺野古に基地を作らせないための戦術・手段であって,戦略ではない.戦略としての辺野古基地建設反対,これで統一すべきであり、その全沖縄の意思の表れとしての翁長当選である.「自分たちのことは自分たちで決める」.この決定権を柱に闘われた今回の選挙は,本当に大きな意義をもつ.しかしこれで終わったのではない.ここからが新たな闘いの段階である.翁長氏のこれからの政策,辺野古基地建設反対の戦術,これを現地の闘いと結びつける.これはすべてこれからの課題である.
また,沖縄の選挙では公明党が自主投票,共産党が翁長支持と,いつもなら内から自民党を支える公明党と外から分裂を持ち込む共産党が,いずれもそうしなかった.沖縄現地の共産党には占領下での独自の闘いの歴史があり,学会もまた反戦平和の原点が沖縄にある.そして何より,沖縄現地の怒りが,公明党共産党に,従来の日本本土のような行動を許さなかったのである.この教訓を今度の衆院選に生かせるかどうか.候補の調整など目もくれずに,全選挙区での擁立を自慢げに話す志位氏を見ていると,それは今のところありえないが,沖縄の闘いはわれわれにも大きな教訓である.人民新聞が現地からの報告を載せている.「オール沖縄」で平和・自己決定権求め安倍政権に「新基地No!」.この新聞には,こちらもできる協力をしているが,知りあいの現地からの報告は,臨場感がありよくわかる.
また,明日17日は与那国町議会である.八重山毎日新聞が「17日に臨時議会招集 住民投票条例案を問う」と伝えるとおりである.8月末の町議会選挙で自民党と野党が3対3となり,くじで議長が自民党へ.投票すれば野党が多数となった.そこで,自衛隊基地建設の民意を問う住民投票条例の制定が再度審議され,可決された.しかし町長は異議を出すかも知れないし,住民投票が実施されるかどうかは分からないが,それでもこれはまた一歩の前進だ.八重山諸島は長く,台湾や中国沿海部と行き来していた.そこに日本国から自衛隊を常駐させるというのである.安倍政権は教科書も八重山地区の石垣市与那国町育鵬社版の公民教科書を採択させ,そういうところからもこの日本の最西端の地で対中国を煽る拠点としての自衛隊駐留を行おうとしてきた.しかし,それが行き詰まっている.教科書問題では竹富町が一点を突破した.他の八重山地区でも安倍のすすめる偏狭な排外主義に風穴を開ける動きである.日本と,韓国や中国との対立を煽っているのは,この地の軍事的緊張を維持しようとするアメリカ産軍複合体の策動であるが,それを民意がはね返せるか,そういう問題である.もとより道は紆余曲折である.知事選挙で八重山地区は仲井候補が勝っている八重山諸島には沖縄本島を越えて日本本土を指向する勢力もまた少なくないのである.今後の展開を見守りたい.
それに対して旧体制である.安倍首相はG20の記者会見で「民主党の大失敗はマニフェスト(政権公約)で消費税を上げると書かず、国民生活に関わる問題を選挙で信を問うことなく決めた(ことだ)」と指摘という.よく言うよ,である.政権公約に書くことなく秘密法を決めたのは誰だ.政権公約に書くことなく集団自衛権閣議決定したのは誰だ.TPP反対のビラを貼って当選したらTPP推進,それは誰だ.この安倍の言葉に民主党がどれだけ怒れるのか,よく見ておこう.安倍政権はアメリカ産軍複合体の支援を得て憲法解釈を変え,そうして自衛隊アメリカ軍と協力して戦闘に加わることを可能にした.それを尖閣列島をめぐる周辺の日中の緊張関係を利用して実現しようとしてきた.安倍首相は,自らを制約している憲法の解釈を内閣の力によって変え,「憲法解釈の改変」を試み,政治の力で自らへの制約を排除するなど,力の政治を強行してきた.しかし,安倍のこの排外主義やその経済政策が,結局のところ資本主義を自滅させるものであることが,資本主義の側からも認識されはじめている.さらにここに来て,ここまで支離滅裂,わが身を省みないことを言いはじめては,保守の側からも見捨てられる.安倍政治は「去りゆくべきもの」である.しかし,実際にそうなるのかどうか,これからの動きを注視しなければならない.
沖縄に新しい風が吹いている.これまでの歴史を思えば軽々しくは言えないが,それでもそれは日本の旧体制を裏返してゆくような風である.世界中に広がる排外主義的民族主義が日本本土でも広がる中で,それに対して共存共生を求める民族主義が沖縄で従来の枠組みをこえた政治を生みだしている.実際,この選挙は旧来の保革対決型の政治とは異なる選挙であった.旧来の右や左とは異なるところから脱原発を求める立場から,この新しい風に共感する.この風は,日本列島孤のなかで,日本の近代を乗り越え,それを裏返してゆこうとするわれわれの試みを励ますものだ.そして泡盛を味わいながら,事実琉球泡盛44度を飲みながらこれを書いているのだが,私もまたこの風を身にうけたい.自分の住んでいるところから,また自分の拠点とするところから,つまりは自分の足もとから,これに応え、できることはしたいと思う.写真は,夙川上流の野生の白鳩.ガジュマルと2008年に那覇で買ったキジムナーの素焼き人形.ガジュマルは寒さに弱く,11月〜2月は部屋に入れる.