アベノミクスは失敗国家への道

追伸(11.15):世界的な金融情報サービスのトムソン・ロイターが先週「ブラックホール化する日銀の国債購入」と題する記事を配信.「逝きし世の面影」さんの記事「木枯らしと共に解散風が吹き始めた日本の憂鬱」にもあるように,日本政府は「暴落を避けるためには、日銀が国債を買い続けるしかない。」状況に陥っている.そして,これには限界がある.

 安倍が選挙をするようだ.消費増税を先送りした上で,アベノミクスを争点にする.アベノミクスは,3.11の震災以降,ショックドクトリンそのものとして始まった.アベノミクスとは,実体経済とは関係なく円を印刷し,見かけの景気回復を演出しながら,その実,国民の金融資産をヘッジファンドなどの国際金融資本に差し出すものである.これについての田中宇さんの解説「米国と心中したい日本のQE拡大」は当を得ている.要点次のような書き出しである.

 10月31日,日本銀行は,円を増刷して日本国債を買い支えるQE量的緩和策)の拡大を発表した.日銀は,これまでのQEで年に50兆円の日本国債を買い支えてきたのを,80兆円に拡大する.これは,日本政府が年間に新規発行する国債の総額とほぼ同じだ.日本は今後,財務省が発行する国債のすべてを日銀が買い取る.これまで国債の大口購入者だった公的年金基金(年金積立金管理運用法人)は,国債購入を日銀にゆずり,その分の資金で国内と海外の株式,海外の債券を買い増しする.この買い増しへの期待から,日本と米国などの株価が急騰した.世界各国の年金基金のほとんどは最近,金融市場のバブル崩壊を懸念してリスク回避に動いているなか,日本の公的年金だけは逆方向で,株や債券を買い増してリスクを拡大している.
 かつて日銀のQEを賞賛していたゴールドマンサックスは,今やQEアベノミクス全体を「失敗がほぼ確実な政策だ」と批判している.ブルームバーグ通信は「世界最大の財政赤字国である日本で,新規に発行される国債(赤字)のすべてを中央銀行が買い上げるという新事態には懸念がある」と書き「日銀がQEによって発行済み日本国債の半分を保有するようになる2018年までに,日本は失敗国家に転落するおそれがある」「インフレがひどくなるかもしれない」といったコメントを載せている.

 実際,国際金融資本のファンドは,日本のQEを「黒田さんの贈りもの」といっている.これを嬉しそうに紹介する日経も日経である.黒田さんの贈り物で,アメリカの株高も演じられている.しかし,円を印刷し続け国債を自己で買い入れ,年金基金を運用して株高を演出する.このような経済政策は,どのような経済モデルでやろうとも,必ず破綻する.いずれ円はドルとともに暴落する.そのとき,国民の年金基金は大きく損なわれる.その責任を誰が取るのか.目先の株高で一定の国民をだまし,選挙で多数を維持したなら,国民資産をすべて国際金融資本に差し出す今の政策を続け,そのあげくにその大半を失い,核汚染の広がりとあわせて,日本は確実に崩壊する.
 日本の経済誌でも「金融緩和の蟻地獄にはまった日銀 円安・株高「宴の後」に迫る危機 (ダイヤモンド・オンライン)」のようなまっとうな論も出てきている.しかしながら,安倍の仕掛けた選挙に対する野党の側は,まとまっていない.3.11以降,本当に多くの人々が立ちあがってきた.レイバーネットが紹介するように,11月11日にも「戦争する国絶対反対!9条壊すな!」〜国会を包囲した怒りのコールがおこなわれている.しかしまだ議会選挙で候補を統一するところにまでは至っていない.維新の会のような右からの分裂行動と共産党のような「左」からの分裂行動が,その統一を妨げる.このままでは,安倍政権が多数を占め,その向こうには国破れて山河なしの失敗国家が現れるだろう.田中さんは先の論評を次のように結んでいる.

 米連銀がQEを再開するのかどうかわからないが,どちらにしても,QEは長期的に金融システムの悪化,先進国経済の破綻,米覇権の崩壊にしかつながらない.EUは多極化の側に転換して生き延びるかもしれないが,日本はたぶんもう無理だ.官僚機構に潰された09年の鳩山小沢の試みあたりが最後の機会だった.やがて非常に悪い時代がやってくる.今よりもっとひどいことになる.そのことを政府やマスコミは全く無視している.ほとんどの国民は何も知らない.悲しい状況だ

 いったんはそこまでいかないといけないのかも知れない.今年は第一次世界大戦開戦から100年である.ドイツは,第一世界大戦とそしてヒトラーと二回愚かなことをやった.そしてようやくに原発廃止である.二度やらないと歴史の教訓として定着しない.それは悲しいかな現実である.われわれは,かの十五年戦争をやった.そして,二度目が福島の核惨事である.しかし,この核惨事を囲い込んで見えないようにしようとする政府の下で,これが教訓とはなっていない.アベノミクスで失敗しないと分からないのか.そこまでゆくのか.そうかも知れない.国も山河も破れたそのもとで,それでも甦る人間を信じている.