パスカルの定理と幾何学の精神

前に書いて以降,5月に入ってこの3週間ほど,射影幾何のことばかりしていた.これまで,『数学対話』で「デザルグの定理」,「パスカルの定理」,「パップスの定理」と射影幾何に関連する話題を作ってきたが,いずれも入試問題や高校数学での疑問から入っている.高校数学と射影幾何学の仲立ちにはなるが,体系的ではなく,射影変換の不変量である複比についても述べないままになっている.これを整理したいと考えたきたが,射影幾何の教科書そのものは,最近新しいのは出ないとは言え,古本でならいくらもある.
パスカルは16歳の時,パスカルの定理を証明する.翌1640年それを印刷した「円錐曲線試論」が現存する.これはデザルグの考えを発展させ射影幾何学的方法によってパスカルの定理をとらえそれを円錐曲線に一般化するものである.その後パスカルは射影幾何をもっぱらにすることはなかったが、一方「幾何学の精神(l'esprit géométrique)」というエッセイも残す.ブランシュヴィック編の「パンセ」では最初に「幾何学の精神と繊細の精神」が出てくる.射影幾何学の精神というかその根底にあるこころざしは,西洋文明をおしすすめた原動力そのものであるような気がする.そしてその文明は今日世界大に一般化している.われわれ自身がこれを内からつかまなければならない.それで,もういちど射影幾何をまとめながら,幾何学の精神ということを実際の数学を通して考ていくものを作りたいと考えるようになった.
そのための準備勉強をいろいろしてきた.まだまったく不十分なのだが,形にしていくところにきているかも知れない.いつまで頭が動くか分からないので、あまりのんびりもできない.
ということでこの間世上の動きを追っていないが,ちょうど今日『韓国艦、北朝鮮製魚雷で沈没」国際調査団が報告書』という記事が出ていた.事実は『韓国軍艦「天安」沈没の深層』に書かれていることであると思う.なお,このなかで「沈没したのは原潜コロンビアだとみられている。」という後日談は事実誤認.はじめから田中氏も書いていたように沈没したのは共同演習に参加していない原潜.コロンビアはその捜査に加わり帰還が遅れたのだと推測される.もとよりそんな情報は公開されない.情報を握りそれを隠したり捏造したりできる側と,私は逆の側にいる.私にできることは,公にされる情報の矛盾を突くこと,そこから歴史の趨勢を考えることである.
普天間基地の問題もこれと連動して結局,外務省や防衛省の官僚が押し返し,『5月末に日米共同声明発表へ 普天間の辺野古移設を明記』となる.しかし,この問題はもう後戻りできない.この先,誰が日本の権力を握ろうが,沖縄の民意は変えられない.それを受け基地に反対する多くの人々の意志も変えられない.基地建設は現実的に不可能である.歴史は曲がりくねっているが,それでも到達べきところに到達する.現代のローマ帝国の衰退は避けられない.帝国以後の備えを怠るな.幾何の精神をもういちど考えるということも,どこかでこのような歴史につながってるかも知れない.