『解析基礎』

 大学3年生のYさんから『解析基礎』について,手紙をいただいた.
 日本の高校数学では,積分がはじめから微分の逆演算として定義されている.しかし,事実としても歴史的にもそうではない.実際,歴史的には積分の方が古いし,それぞれ独立に定義された.それが普通の関数では微分の逆になることが,ニュートンオイラーの時代に「発見」されたのだ.日本の高校微積の定義ではこの「発見」の素晴らしさがまったくわからない.
せめて高校で数学を教える先生には,ここをおさえてほしいものだという気持ちもあって『解析基礎』を作った.大学数学の書物では事実として微分積分を独立して定義するが,そのことを改めて強調することはあまりないので,高校数学を引きずるとわかりにくくなる.
 『解析基礎』がその点で疑問を持っておられたYさんの役にたてて嬉しい.同じ疑問を漠然と持っている人は少なくないはずで,その点からもいただいた手紙は大切な内容なので,紹介したい.

僕は、理学部物理学科の3回生です。青空学園数学科の様々な記事を読ませていただき、心から感動しました。本当にありがとうございます。中でも特に感激したのが、「解析基礎」の記事です。僕は物理学科ですが、数学に非常に興味があり、数学科の授業をいろいろと履修しています。昨年、「ルベーグ積分」の授業を受講しました。しかし、単位はとれたものの、理解したとは全く言えない状態でした。具体的には次のような疑問が残りました。

  • 測度のもつ性質がいろいろあって煩雑すぎる。本質はどれか。
  • リーマン積分で成り立たないことがルベーグ積分で成り立つのはなぜか。
  • 原始関数と定積分はどのように結び付くのかなどなどです。

いろいろなルベーグ積分の本を読みましたがすっきりすることはありませんでした。しかしあきらめずに勉強を続けていると結局、

  • 面積(測度)はどのように定義されるのか
  • 微分の逆演算がなぜ、定積分と関連するのか

ここがわかっていないのだと気付きました。そんなとき、インターネットで青空学園の記事を見つけたのです。そこで、「定積分微分とは独立に定義されるもの」という、僕にとって革命的な記事に出会いました。感動と悔しさで涙が出ました(笑)。
確かに、高校数学では、定積分を原始関数の差で定義しています。だから、原始関数が存在するかどうかなんて考えもせずに、定積分を計算します。僕もその一人でした。このことが、ルベーグ積分がわからなかった根本の原因だったのです。計算方法の習得だけで根拠がわからなければ、やはりどこかで弊害が出てくるのですね。
「解析基礎」は全て読ませていただき、自分なりにノートにまとめています。まだ拝見できていない記事もありますが、今後もずっと、参考にさせていただくことになると思います。新しい記事も楽しみにしていますので、これからもよろしくお願いします。

 数学にかぎらず学問体系の論理構造を考えるということはたいへん重要なことなのであるが,この点が高校でも大学でもたいへん弱い.考える対象としてとらえられていない.昨今ますますそれが希薄になっている.でもこうして自分で考える人はいる.そういう人の役に立ちたいということが青空学園の初心である.この意味で,この手紙はこちらの励みになる.Yさんに感謝.