原発破局

 雑誌『現代思想』5月号は「特集東日本大震災−危機を生きる思想」として多くの人が一文を寄せている.すべて読んだ.そのなかで「ヒロシマからフクシマへ」(関曠野,思想史)はその冒頭で次のように言う.

 恐れていた原発事故という悪夢が現実になってしまった。だが不幸なことに原発の事故は巨大地震と違って完全に予期されていたことである。とにかく福島原発の事故−というより破局を東電のずさんな管理体制やデサインの矢陥だけのせいにしてはならない。原発はもともと核反応という非ニュートン的現象をニュートン物理学の技術の枠内で制御しようとする原理的に矛盾し当初から破綻した技術なのである。福島原発の場合、事故の発端は津波による予備電源のディーゼルエンジンの燃料タンクの喪失という単純なメカの支障だった。しかし一度炉心にかかかる事故が発生してしまうと、それにメカニカルに対処することはできない。核反応の慟きは気紛れで予測も制御も困難であり、事態は結局成り行きに任せるしかなく人間にはその場しのぎの応急措置をとることしかできない。

 東電も政府官僚もさらには原発を推進する立場での研究者も,そしてそれを受け入れたわれわれの社会自身が,原子力技術をニュートン物理学の延長線上にある先端技術と思い込んでいた.しかし違うのである.はるかに一般的な理論のうえに得られる力である.現代社会の土台にはあくまでニュートン理論がある.それはまったく個別の理論なのである.だからいったんこのような事故が起こるとニュートン理論とそれによる社会では制御不能に陥る.東電も政府もデータを隠している.しかし実のところ彼らも何が起こっているのか把握できず,まして制御できていないのだ.
では制御不能になることもありうることを前提にして事故のときの方策を立てていたか.まえに最悪に備えよといったが,実は何が最悪かもつかめていないのだ.だからそのときの備えなどできはしないのだ.関さんのいうようにこれは原発事故という破局かも知れないのだ.さらに関さんは書く.

 福島原発破局に歴史的な意味があるとすれば、それは戦後日本の進路を左右してきた権力構造のメルトダウンである。政財官界に一部学界とメディアのエリートからなるこの密室政治と癒着の構造は運命の一撃によって積水細工のように壊れてしまった。東電の幹部や政府高官のパニック状態がこの権力の解体の印である。

 政府もマスコミも何とかこれを覆い隠し事態が掌握できているようによそおう.しかし事実がそれを突破してゆく.いつまでも汚染水を出し続ける.これが現実だ.近代日本の産・官・学の体制は砂上の楼閣だった.福島原発事故はこれを誰の目にも明らかにした.「保安員全員アホ」という小学生の間に流行る回文は,この明白になった事実を端的に言い表している.
 この砂上の楼閣はいちど十五年戦争とその敗戦で明らかになったのだが,しかしこのときこの旧体制は再編され温存された.そこに冷戦期におけるアメリカの力が大きく働いた.そして今回である.二度と同じことをくりかえしてはならない.
 昨年秋以来,旧体制を打破しようという街頭デモも始まっていた.地震がなくても,この国の旧体制は,すでに制度疲労し破綻を来していた.自然の力はそれをより劇的に,悲劇的に明白にした.昨秋来の運動も,実はそのいわんとすることは,こういうことだったのだ.人間の智にはそのときそのときの限界がある.社会としては原子力技術を先端技術と思い込んでいた,これはそうだった.しかしそうではなかったことが明らかになったとき,どれだけこの体制をかえてゆけるかだ.旧体制に戻そうとする勢力はもとより大きな力をもっている.しかし,子供らの未来のために,原発事故を引き起こした旧体制は打ち破らなければならない.
追伸1:ここまで書いてアメリカがオサマビンラディンを殺害したというニュースが入ってきた.これについて私が10年前の9・11の後で,当時やっていた掲示板に書いた記録が出てきた.
アメリカの報復戦争反対 投稿日: 2001年9月18日(火)14時04分20秒------------------------
1.まず今回のテロで死んだ人々を心から哀悼します.また行方不明者の生存を祈ります.いつも犧牲になるのは勞働者です.
2.しかしアメリカの報復戦争に反対です.今回のテロは,アメリカの中東政策自身が引き起こしたものです.例えば,先日,パレスチナPFLP議長アブ・アリ・ムスタファ氏ががイスラエル軍によって暗殺されましたが,これを容認し後押ししたのがメリカです.このときすでに戦争段階に突入したと言うべきであり,その引き金を引いたのはアメリカ・イスラエルです.
3.しかし,もしアメリカがアフガンを侵攻してもそれは第二のアフガン戦争であり,第一のアフガン戦争がかつての超大国のひとつソ連を崩壊させたように,第二アフガン戦争は残る超大国アメリカの崩壊を導くでしょう.
4.私はアラブ人民の闘いを支持します.同時に,今回のテロには反対です.歴史をテロや謀略で変えることはできない,という信念を持つからです.今少し時間が必要ですが,今日の腐敗した金滿資本主義に反対する闘争は必ず今一度高揚します.
5.日本国内に,この機会を捉えて憲法第九条を変えようとする動きが出ています.私は第九乗の思想こそ第二次世界大戦の教訓をもとに人類がかちえた貴い思想であり,今の状況でこそ生きるものだと確信します.ですから私は,なんとしても第九条とその精神を守るために闘いたいと思います.

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あれからもう10年になろうとしているのだ.事態はまったくここに書いたように進んだ.この10年は自由主義経済がいったん高揚しそして凋落した年月だった.今やアメリカは,他国領内で証拠も裁判もなしに大統領が指示して人を殺し,それで国が沸き立つというところまで堕落している.経済的にも,帝国アメリカはそう遠くないうちに金融崩壊に至る.これは不可避であり法則である.腐敗した金滿資本主義に反対する闘争もまた新たな段階に至っている.
ビンラディンが死んだというニュースはこれまでも何回か流れた.今回もし本当であるとすれば,その死は,時代が少数者の自爆攻撃の時代からアラブの民衆革命のような多くの人々の人民闘争の時代へ転換する象徴となるだろう.とすればビンラディンもまたその歴史的任務をまっとうしたということになる.なすべき事をなして死んだものには,その冥福を祈るばかりである.
追伸2:NHKの過去のチェルノブイリ特番が下記にある.15年前,チェルノブイリ原発事故から10年の報道である.10年後の健康被害も詳しく伝えていた.原発破局そのものである.もっともこれもいつ見られなくなるかもわからない.若い人はぜひ見られるうちにいちど見ておこう.著作権がどうなるのかわからないが,今はそれを言ってるときではない.
YouTube,Veoh Video,DailyMotion の順
チェルノブイリ原発事故・終わりなき人体汚染 1-4
http://www.youtube.com/watch?v=4GcOF4prndE&feature=related
http://www.veoh.com/watch/v20916281en3xhCsQ
http://www.dailymotion.com/video/xhvvco_yyyyyyyyyyyyyyyyyy1-4_news
チェルノブイリ原発事故・終わりなき人体汚染 2-4
http://www.youtube.com/watch?v=wk-rOLrRnx8&feature=related
http://www.veoh.com/watch/v20916282PsShZj7R
http://www.dailymotion.com/video/xhvxhi_yyyyyyy-yyyyyyyyy-2-4_news
チェルノブイリ原発事故・終わりなき人体汚染 3-4
http://www.youtube.com/watch?v=sqG0_3jlU-Y&feature=related
http://www.veoh.com/watch/v20916285FP2rEwSk
http://www.dailymotion.com/video/xhvyj4_yyyyyyy-yyyyyyyyy-3-4_news
チェルノブイリ原発事故・終わりなき人体汚染 4-4
http://www.youtube.com/watch?v=TPGlJpQN4Kc&feature=related
http://www.veoh.com/watch/v20916290fz7rN2An
http://www.dailymotion.com/video/xhvz38_yyyyyyy-yyyyyyyyy-4-4_news