射影幾何(続)

この2,3日は外の世界にことがいろいろ気になりながら,ポンスレの定理をやっていた.先日の図の個別の場合に右図のように赤色の円錐曲線が2直線に分化する場合がある.こういう図は面白い.縮小して色がもう一つなので,興味をもてば本文の方へ.
また二つの円錐曲線をその交点が虚点になるように射影変換すると円の束になるが(下図),そのことを用いた証明を追加し,『パスカルの定理と幾何学の精神』のHTML,PDFファイルを更新した.
ポンスレはナポレオン時代の幾何学者にして,今日につながるフランス教育制度の礎を築いた人.ポンスレは幾何をあくまで実平面いおいて考え,巧みに複素数を避けたようだ.彼の幾何学に対する考え方である.力学的な仕事もした人なので,実際に存在する現実の図形を大切にしたのだ.
それに対して,『パスカルの定理と幾何学の精神』では,できるだけ任意の体上で考える.ポンスレの定理は複素射影平面で考える.そして,ここにも載せたような「図」は,点と直線の相互関係の象徴として用いる.公理系から構築されてきた射影幾何において「図」はユークリッド平面におかれた図形の点や直線ではない.あくまで,共線,共点関係の象徴的な記号として用いている.係数体が複素数体の射影幾何の命題を,実数平面に描いて考えることができるというところに,点と直線とそれらの共線,共点関係だけから構成された射影幾何の本質がある.
ポンスレの定理の古典的な証明までできた.当初の計画のうち結論を除く一通りができたことになる.およそ1年半かかった.若いころは数論の勉強だったので,幾何は一からだった.学生時代に買ったままだった射影幾何の本を読んだのは意義があった.最近はもう射影幾何の新しい本など出ないので,こうしてまとめておけば誰かの役にたつだろう.
パスカルの原文にもういちどあたり,パスカルやデザルグらが何を見ていたのか,今日の地点から考えたい.その中にすでに19世紀,クラインの幾何学思想の萌芽があるように思われる.また,代数幾何では大域的な変換群はもはやないのだが,それでもその精神は受け継がれている.この辺りをいろいろ調べて結論をまとめておかなければならない.19世紀は西洋文化が多くの闇も伴いながら,それでも輝いていた時代である.その時代に得られたことを,人間の普遍的な遺産として今日に継承する,それが,『パスカルの定理と幾何学の精神』の意図なので,自分でここまでと思えるまで,もう少しこの方面の勉強も続けよう.