年のはじめに

あけましておめでとう.今年もよろしくお願いします.昔小学校の頃,1月1日は全校登校日.講堂で校長先生が挨拶し,「年のはじめの…」という歌を唄い,紅白のまんじゅうをもらって帰った.一昨年.正月の記憶を書いておいたが,かつては,少なくとも正月の間は,何かわからないでも,すぐそばに神的な存在を深く感じる空間があった.それはやはり大切なことであり,核惨事の続く今こそ大切であるように思う.
さて,年頭にこの1年の見通しを立てることは,大切なことである.私は結論的には,今年は歴史が大きく動く1年となり,新しい時代を作り出す人々の組織がその芽を出すと考えている.それはどういう方向なのか.
経済では資本主義本家のアメリカ経済が行きづまる.これは避けがたい.アメリカと欧州は,15,6世紀に世界を一つの資本主義にのみこみ,アジアやアフリカへの植民地支配による収奪とそれによってもたらされる利益,これを土台とする繁栄をこの500年間続けてきた.しかし第二次大戦後の1950,60年代にかつての植民地が独立し,欧州繁栄の経済的基盤は失われた.その後も軍事的政治的文化的優位を配景に,新植民地主義による収奪を続け,さらにその後,政治力軍事力の行使と金融技術の駆使によって新自由主義を広げ,それぞれの国内的にも階級格差を広げながら,植民地の基盤が失われた以降も,その繁栄を持続しようとやってきた.しかしいよいよそれが困難になってきた.
かつて植民地主義に苦しみそこから自立したが,しかし結局資本主義をやってきた国,中国のバブルもまた法則的に崩壊する.中国のバブルがはじければ,もう資本主義に別の道はない.資本主義そのものが終焉に向かってまっしぐらに進んでいる.後戻りできない崩壊の時代である.これが今年はっきりする.資本主義の上部構造である様々の政治体制も動揺を続ける.いくつかの国で大統領選挙などがあり,それと連動して様々のの動きが出る.日本もまた選挙の年になるだろう.
しかし時代を動かす力が議会選挙や首長選挙にあるのではない.結局は人々の直接行動である.その力が今年,組織的な形態を見出すかどうか.かつて今から十数年前,アルゼンチンではアサンブレアといわれる都市住民たちによる近隣住民集会,つまりは直接民主主義の人民権力が出現し,それが新自由主義を終わらせ新しい南米を生みだす力となった.昨年,アラブの春からアメリカの占拠運動まで広がった,強欲資本主義に反対する街頭や広場の占拠,新しい空間の出現が,今年,下からの政治力としてのアサンブレアを生みだすか,ここに注目し,またその芽が出たなら迷わずそこに参加する.
一方で,資本主義が行きづまったとき,最後に出てくるのはファシズムと戦争である.橋下主義,アメリカの茶会運動,ここにファシズムの芽がある.また,昨年末来いろいろ動きのあるイラン情勢.戦争はあるとすればイランをめぐるアラブ世界と,イスラエルを代理とするアメリカとの戦争.ファシズムと戦争は2011年にその芽が出た.アメリカは急速に反動化している.資本主義の危機からの脱出を目指したファシズムや戦争を許してはならない.それはもう何度も経験してきたことなのだ.有限の地球で今度それをやれば破局である.それをやればやった方が崩壊する.しかしそれは犠牲が大きすぎる.
ファシズムか人民の下からの力による変革か.そういうことが問われる年になる.今年「大変な年となりそうですが,先ずは,自分の足元を見つめ,他人のことを思いやることができるような自分でありたい」と書いてきた親戚からの年賀状があった.そうなのだ.こういう激動のときはまた,人々のつながりが再発見され結びなおされるときでもなければならない.
このようなことを考えながら年末年始,こちらはいろいろ計算ばかりしていた.ポンスレの定理の証明なのであるが,いちどやっておけば,どこかでまた数学を教える人の誰かの役に立つだろう.そういう教育数学の素材作りを今年も倦まずたゆまず続けたい.たとえ街頭で座り込んでいても計算は続ける.ガロア理論入門は必ず着手する.定義集もせめて20語くらいは増やしたい.等々.年頭雑感である.
追伸:サーモンの『解析幾何学』18章「円錐曲線系の不変式及び共変式」を読んでいる.1923年の小倉金之助訳の第4版である.面白い.『幾何学大辞典』6巻のポンスレの定理を証明した附録の部分がここにある.叙述も,そこまで言わなくてもと思うくらいに丁寧で,こちらが作るときの参考になる.解析幾何は,教育的に言えばもっと現代に復活してよい.