主権者国民連合

しばらく計算ばかりしていた.自分でたてた問題が解けるまで,まだまだ先は長い.いつの間にかもう5月も終わりに近く,梅雨の時節も近い.空気に湿気を強く感じる.写真はバラ.バラの時節からアジサイの時節に移りつつある.現世に目をやるといろいろ新しい動きが出てきた.経済学者の植草一秀先生がブログ『知られざる真実』(2012年5月14日)で政治運動「主権者国民連合」創設宣言を書いておられる.<1.脱原発 2.反TPP 3.消費増税反対> この三点で賛成できる人々を一つの潮流に,ということだ.
私はこれに賛同する.大きく共通できるところで統一してともに闘う.いろんな意見の違いはあっても行動においては確認した共通点で統一する.これが運動する側での民主主義なのだが,日本の運動ではなかなかできないことだった.このような呼びかけを呼び水にして,紆余曲折を経て選挙のわくをこえた運動に広がるだろう.主権者国民連合のTBサイト.さっそくこれに呼応して,6月3日には東京で「主権者国民連合」の旗を掲げたデモがおこなわれる.前に植草先生の『日本の独立』を読んでの感想「『日本の独立』を読む」を書いたとき,これをブログ『知られざる真実』で紹介いただき,リンク集に入れていただいている.一貫した先生の姿勢に共感する.
日本でのこのような動きは,もっと激しい世界の動きと共鳴している.スペインでは22万人がデモ『怒れる人々』 1周年デモ,緊縮撤回,経済不平等廃止を要求.欧州連合EU)金融資本の中心地ドイツ・フランクフルトでは5月16日から19日,新自由主義の強欲な資本主義に対抗するデモなどがくり広げられ,ヨーロッパ諸国の政府当局による緊縮財政措置に抗議した.これに対してドイツ政府は押さえ込みにかかり数百人以上の参加者が拘束された.そのブログ.ドイツ語だが様子はわかる.そしてカナダ.メープルの春:逮捕者は1000人近く.カナダ・ケベックの大規模学生ストが100日超えた.カナダでは今週、モントリオールの街頭を40万人を超える人々が埋めた.学費が75%以上も上がることに対する抗議が本格的な政治危機に発展している.3カ月を超える息の長い抗議活動とストライキが続いている.
現代は情報技術の時代である.このような世界の各地での動きを,互いに深い共感と共鳴をもって知ることができる.私は,塾業界で教えるようになる前の数年,印刷業界で仕事をしていた.パソコンを使って組み,電算写植で出力し,版下を作るシステムを扱っていた.1993年のはじめごろ,ある業界雑誌にこの技術と業界の展望に関する一文を寄せたが,そのなかで次のように書いたことがある.

技術の発展からみると、現代は情報技術の時代である。この技術は、人間が言葉を獲得したことと同じくらい大きな意義を、人類史上に持っている。かつて、サルからわかれ直立したヒトが区切って声が出せるようになり、この有節音の獲得が人間に言葉を与え、思想を可能にしたように、情報技術は人間に新しい知恵、つまり個の尊重と協働して生きることとの両立を可能なものにする。人類はいま、真の民主主義を実現する可能性を生みだしたのである。… けれども、今日の技術革新が用意したのは可能性としての民主主義であって、これを現実のものにかえるのは現代社会の問題である。

19年前に書いたことがいまこのような形で現実化してゆくことに感慨を覚える.植草さんの呼びかけも,この情報技術を前提にしたものだ.技術を誰がどのような立場で使うのか,これが問題なのだ.いつもこのような情報技術の発展が新しい時代を開く.宗教改革は活版技術によって誰でも聖書が読めるようになったことが前提であった.ロシア革命の場合は鉄道技術が決定的だった.新聞が鉄道網によって各地に配達される.これが大きかった.レーニンが亡命先から帰国したのも,貨物列車に隠れてのことであった.今日の情報革命は情報の伝達とともに協働の場での相互のやり取りが可能で,「協働知」ともいうべきものが形成される点に大きな意味がある.これからも,教育数学の勉強をしている人間として,できるところからこの「協働知」の形成に加わり,また実際の現場での行動に参加する.そうでありたい.
と考えていたら,注文していた「The collected mathematical papers of Arthur Cayley.Vol. 2」が来た.Michigan 大学の「Historical Reprint Series」の一冊だ.このように古い論文を読みやすく提供することは大変いいことだ.これは1851年から1859年の間の101論文から158論文を集めたものだ.先にネットで手に入れて読んだ113論文の計算はほぼできた.楕円関数の加法公式を一から計算したので勉強になった.こちらのたてた問題を解くためには,まずケーリーの楕円積分の側からの定式化の内容をつかまねばならない.そのために,115,116,123,128論文あたりを読み解かねばならない.19世紀の数学の再構成は自分にとって面白いし,こうしてやっておけば,この先誰かの役に立つだろうと考えている.