『戦後史の正体』を読む,等

このところ夏期講習と問題作成におわれて,日記が書けていない.合間をぬって『戦後史の正体』(孫崎享著,創元社)を読んだ.内容的には前に紹介した「沖縄・米軍基地観光ガイド」に書かれた戦後の日米関係を,実際に外交官僚であった著者が,内側から,戦後のアメリカに隷属した国家のあり方として,具体的に書いたものである.戦後の日本外交を,対米従属派と自主独立派の抗争という視点から捉え,そのうえで結局はこれまでは対米従属派が勝利してきた過程を描いたものである.アメリカの占領政策がいかに日本国の深部にまでおよんでいるか,サンフランシスコ条約による戦後日本独立が,じつはアメリカの手の内にあり,アメリカの対日政策がいかに深く長く規定し続けているかを,克明に証明するものとなっている.
探せば著者の映像も「戦後史の正体」について - YouTube のようにあるし,多くの書評もある.また大阪の討論Bar“シチズン”では8月25日(土)午後3時より著者を招いての討論会もある.まず本書を読み,自分で探して資料を集め,深く考えるところに来ているので,それを若い人に呼びかけたい.
ただ次の二点をしっかりおさえてほしいと思う.第一に,アメリカの覇権を維持し,そこから経済的利益を最大限に引き出すという,戦後アメリカの対日政策は,日本にかぎることではなく,とりわけ第2次大戦後のアメリカの対外政策の基本であったと言うこと.南アメリカが特にこの政策に苦しめられた.1973年,チリの大統領アジェンデは,クーデターで倒れまさに非業の死を遂げた.裏でこれを操って動かしていたのはアメリカである.その後困難な闘いを経て南米はアメリカのくびきからようやくに独立した.南米の経済共同体メルコスルはベネズエラ加盟で世界規模で第5の経済圏を形成している.第二に,この孫崎さんの本の出版自体が,アメリカの凋落を意味しているということである.もはやアメリカはかつてのアメリカではない.かつてならこんな本は出版できなかった.どこも引き受けなかった.これを出版するところがあること自体,アメリカの支配力の衰えである.その一方で,凋落すればするほど日本をその勢力圏におくためになりふりかまわぬ介入をしている.これが昨今のアメリカの姿であり,日本政府はその悪代官としての役割を担っている.
一方全国に拡大する金曜行動は衰えない.各地に広がりまた東京でも主催者を越えて深まってゆく.いずれにしてもこちらは月末の金曜まで参加はできない.このデモや集会を通して,個別の政策や既成政治における個別の結果がどのようになるのかは,いまはそれほど重要ではない.この新しい人の動きが,新しい世の土台になる.その土台がどれほど深まるか,である.そこのところをしっかりと見すえ,それぞれ自分の場所でできることすればよい.
私についていえば『定義集』は少しずつ言葉を増やせているが,これまではいはゆる「詞」という言葉が中心であった.しかし日本語の論理を考えるうえで「辞」といわれ,「てにをは」ともいわれる助詞や助動詞(これらの言葉自身がこなれてはいないのだが),これらについてももっと考えなければならないとわかってきた.その方法論を考えている.
『Poncelet's Theorem』は第I部の射影幾何を終えて第II部,いよいよリーマン面の解析理論に入り,一番集中するところである.第I部では,これまで書いてきたことを見直すことができた.二次曲線では非退化と非特異が同値であることをちゃんと証明していること.退化二次曲線への目配りがしっかりできていること.これはこちらのも手を入れなければならない所である.さて,ケーリーの証明を再構成するところまでゆけるか.等々考えている.火曜日からは11日間連続で授業.問題作成も9月10日締め切り.毎日時間が足りない.いつまで頭と体が動くのだろう.
写真はシオカラトンボ.はじめのはシオカラトンボの雄.次のは川辺のメス.ムギワラトンボといわれている.