『タブーなき原発事故調書』

鹿砦社の『タブーなき原発事故調書』を読む.この本は大手の本屋にはない.週間金曜日のニュースにもあるように取次店が委託配本を拒否した.それで直接注文し送ってもらった.鹿砦社は月刊誌『紙の爆弾』を出している.社長の松岡さんは昔いちど西宮にある鹿砦社の事務所でお会いしたこともある.鹿砦社を引き継ぐ前は季節社という出版社をやっていて『季刊 季節』という季刊本を出していた.出版人としての一貫した生き方を尊敬している.
本書の第一部は「絶望に希望の火を灯す、真実の声」として,第1章「原発と闘う人々、怒りを語る」では,東京電力元社員激白/広瀬隆福島原発で起きたのは核爆発だった」/北村肇『週刊金曜日』の反原発・言論戦と原発の許せざる人々/山本太郎脱原発で広がった新たな人間関係こそが財産」/蓮池透原子力の奴らがヘマやったと東電社員は思っている」/日隅一雄「フクシマに見る、「情報公開制度」の必要性を語る」と,日頃発言している人に,もう一歩踏み込んだ取材をしている.最後の日隅一雄さんの記事は胸を打つ.日隅一雄さんは癌をおして取材していた人で,この取材の直後に亡くなられた.そして第2章「被災地を歩く」では「チェルノブイリと共に消えた街 夢の原発村の魔法は、ここから始まった」と「福島第一原発近郊の町を歩く 放射能に追われた人々は今…」である.新聞やテレビが報じない核惨事の現実を取材している. 
第二部は「福島原発事故・超A級戦犯26人」と題して,第1章「東京電力に巣食う悪人たち」,第2章「今でも「安全神話」に固執する御用学者」,第3章「原発利権に群がった悪党ども」,第4章「脱原発の声を封じた労働貴族」,第5章「原発再稼働戦犯」とそれぞれ直接取材を試みている.犯罪企業東電の元会長勝俣氏が孫と散歩しているところを追っかけ取材をし,話を引き出している.本来なら,核惨事を引きおこした責任者として,未必の故意の殺人を問われ,獄にあってもおかしくない人が,退職後のんびり散歩している.一方で,福島の現実の悲惨,その一つ一つは書けないが,なんという対比.本書の「はじめに」の最後に次のようにある.

 事故当時の東電の勝俣会長や清水社長は天下りして、豪邸に往みながら悠々と暮らしている。われわれのスタッフが訪ねていった時、勝俣はのんびりと孫と遊んでいた。このあまりの落差。他人の暮らしを根底的に踏みにじっても、なんら心に痛みを感じない人々が原発を動かしているのだ。
 だが、絶望の中に、希望もある。不遇に耐えながら、たえまなく原発の危険性を訴え続けてきた人々がいる。事故後に気づき、仕事を失うのもかまわずに、立ち上がった人々もいる。病と闘いながら、声を挙げ続けた人がいる。
 原発廃炉も難題だが、社会のすみずみまで浸遂している原子カムラの解体も、また難題だ。だがそれをやり遂げた時に、日本は世界から愛される国に変わるだろう。それは、いつか必ず実現できると信じている。ささやかながらも、本書がその一助となれば、幸いである。

まったく同意する.勝俣元会長とのやり取りの委細を含め,ぜひ直接注文して読んでほしい.