小沢無罪と衆院選挙

 12日,東京高裁で検察審査会裁判である陸山会問題に関して,小沢一郎生活党党首に対する無罪の判決が出た.昨日本屋に行くと,鹿砦社の『紙の爆弾』の12月号増刊として「小沢一郎,復活.」が出ていた.発行日が11月12日.判決の日にあわせて準備されたのだろう.鹿砦社の本などめったに店頭に置かない紀伊国屋書店がこの本は山積みにして置いていた.売れると考えたのだろう.こちらも一冊買った.歴史経過と,郷原信郎氏,平野貞夫氏,鈴木宗男氏,天木直人氏へのインタビューで構成されている.それぞれの人の言うことは,ネットなどで知るところであるが,まとめて一読の価値はある.鹿砦社の社長の松岡氏はもともと京都の新左翼の流れにある人であるが,2010年12月には平野貞夫氏の本『日本一新』を出された.やはり出版人として,小沢裁判は許されないと考えてこられたのだろう.その気持ちはよくわかるところだ.
 私の方も,この問題に関して最初にここに書いたのは,2009年3月6日付「小沢民主党代表の秘書逮捕問題」だった.それまでの10年,世のことごとへの行動はひかえて,ひたすら青空学園の諸々の制作に打ち込んでいた,この秘書逮捕問題以降「小沢氏と政治的立場がまったく同じということではないが,しかし,このような国家による政治弾圧は立場を超えて許さない」というところから発言し,10年の秋からは市民デモにも加わってきた.京都時代をのぞいて昔は組合など組織で参加するデモがほとんどであったが,このときからまったくの個人として参加してきた.
 この3年,このような市民の行動が澎湃として出てきたのは,日本の歴史のなかでも新しいことであった.昔,京都でベ平連のデモによく出ていたが,あれは鶴見先生や飯沼先生などの知識人と学生のデモだった.この間小沢問題をきっかけに起こってきたデモなどの動きは,中年から老年の市井の人々のものである.この3年間の蓄積は大きい.小沢氏が被告人にされて3年間政治活動を制限されてきたことを,「大きな時間の損失」ととらえることもできるが,しかし,このような市民の政治主体を形成し育てるということでは,たいへん貴重な時間であった.市民の運動の基調は,裁判所や司法機関の腐敗批判,官僚による「官僚の既得権擁護と格差拡大政治」の打破,偏向報道を続けるマスコミ批判,そしてアメリカからの独立,であった.一言でいえば旧体制打破である.これがネットなどの情報手段を媒介に力を育ててきた.
 そこに3.11東電核惨事が起こった.当初は市民運動の側に,事態のあまりの大きさに戸惑いもあったのだが,地震列島に原発を作り,福島第一の事故後も情報を操作して事態の真実を隠し,核汚染を世界にまき散らしながら誰一人責任を取らず,福島を見捨てる日本政府と原子力村は旧体制そのものではないか.旧体制=原子力村が明確になるにつれ,市民運動の側も明確に脱原発を掲げた.また,生活党が10年での脱原発を政策の基本にすえた.これまで反原発の運動をやって来た人のなかには「なぜ10年なんだ,即時でないのだ」という人もいる.しかし,即時廃炉といっても,使用済み燃料をどこに集めるのかということから,放射性廃棄物の処理の方向,廃炉の工学的な目処もまったくない現状では,方法を模索しながら進むしかなく,即時も10年も同じことである.このあたりがもう一つ大きくまとまることが出来るかどうか,まだ開かれたままの問題であるが,団結するしかない.
 そして野田政権の衆院解散である.これが,旧体制打破の勢力が力をもつ前に,とりわけ小沢裁判で控訴断念,無罪確定となったときにその影響を出来るだけ薄めるため,急いでというかあわてて,大蔵官僚や読売新聞が仕組んで野田に言わせたのである.野田は民主党内の一部の者が選挙で生き残り,自公民連立政権に入れればよいとして,多くの民主党若手議員のことなど考えずに,解散に踏み切った.消費税問題のとき選挙が怖いので民主党に残った若手議員や鳩山氏は見捨てられた.自業自得とも言えるが,それだけ旧体制の側に余裕がなくなっているのだ.
 その旧体制が目論んでいる選挙後の自公民体制は,完全な対米従属政権で,昔の南ベトナムの傀儡政権と変わらないものだ.TPP参加で,日本郵政にある国民の膨大な金融資産をアメリカに売り渡し,国際的にもアメリカの手先として,使い走りに徹する.それはすでに現れている.内戦状態が続くシリアへの制裁措置について協議する国際会議が11月30日に都内で開催される.外務省が発表した.シリア制裁に消極的な国が多いアジア諸国にも参加を呼びかけるとのこと.シリアは日本にこの会議を開かないように警告している.
 「シリアの解放? 民族的・宗教的浄化とジェノサイド」などを読むと,シリア内戦は,アメリカや日本政府,サウジアラビアなどの親米アラブ政権がいうようなものではないことがわかる.日本がアメリカの肩代わりをしてシリア反政府側に肩入れすることになる.日本の立場が,アラブの人々と対立することがいっそう明確になる.このようなことが何一つ報じられることなく進行している.隷米売国政治,これが日本の政治の今の実態である.
 現代は,強欲な資本主義国・帝国アメリカの非道に対して闘い,人間原理を一つまた一つと打ち立ててゆく時代である.人間としての当たり前の生き方を壊す者と闘い,当たり前のことを当たり前のこととして追究する.そんな時代である.その上に現れるであろう,資本主義をのりこえる新しい世の姿は,まだ見えない.しかし,歴史は曲がりくねっているが,必ず到達するところに到達する.この点に関して私は革命的楽観主義である.