日本はなぜ、「基地」と「原発」を止められないのか

 今日は定例の金曜行動の日.夏用の短い靴下で出かけたが足もとが寒い.これはいかんとコンビニで少し長めのを買う.なんと100円.こちらは知らなかったが,靴下1足が100円になっているのだ.ということで,関電本社前に到着.秋たけなわの時節,人も夏のころよりは増え,100人程か.いつもの彼やその他顔見知りに会った人らとあいさつしながら,こえをあわせてきた.
 20日から22日,原発に関して現在の状況を象徴するようなことがあった.ここに日本の闇というべき事態がある.
高知県の明神水産の会長が三陸の漁場では操業しないと主張  2014年10月20日08時33分 高知新聞

 カツオ船団では高知県内一の規模を誇る明神水産(高知県幡多郡黒潮町佐賀)の会長、明神照男さん(78)が最近、「福島の海が危ない。今後、基本的に三陸の漁場では操業しない」との主張を強めている。脱原発を訴える講演会に足を運び、「残念なけんど、もう福島で漁業はできんと思う」とも語った。決断は、東京電力福島第1原発の事故による海洋汚染だという。明神さんが漁を始めた1950年代、米国は太平洋のマーシャル諸島周辺で核実験を繰り返し、高知県の漁船も多数被ばくした。そんな経験もあって判断した、と。明神さんの率直な思いに耳を傾けた。

にはじまる高知新聞の記事.高知新聞のもと記事はここにあったが削除されている.しかし,全文はここ阿修羅掲示板で読める.また記事の写真がここにある.明神さんの意見は,ご自身のこれまでの経験をふまえたたいへんまっとうな,またごく普通の見解である.高知新聞の記者もまたこれを当然の意見として載せたのだろう.ところが22日になって会社は次のように発言.

 明神水産社長「三陸沖での操業継続」会長発言は会社意向と違う 2014年10月22日08時29分 高知新聞
カツオ一本釣り漁業の明神水産(高知県幡多郡黒潮町)の明神照男会長が「今後、基本的に三陸の漁場では操業しない」と高知新聞のインタビューに答えたことに関し、明神水産の明神正一社長は21日、「会長がその内容の発言をしたことは事実だが、会社の意向とは違う。三陸沖での操業は続ける」などと述べ、会社として東北と今後も協力態勢を取りながら操業を続けることを強調した。

 これを報じた高知新聞もと記事もまた削除されている.高知新聞は余りの反響に恐れをなしていずれも削除したのだ.
 おそらく原子力村挙げて,この会社と高知新聞への働きかけがあったのだろう.川内原発をなんとしても再稼働しようとするときに,何という記事を載せるのか,というわけである.原子力村が段取りした抗議のメールなども,新聞社に来ただろうし,またこの会社にも来ただろう.会社に対しては金融機関まで動いたかも知れない.そのあげくの会社の見解表明であった.
 なぜこのようにまっとうな会長の意見が押しつぶされるのか.いったい今の日本はどうなっているのだ.その仕組みは次の本を読めばわかる.今日の関電前集会でいつもの彼に「面白い本があったよ」とリュックから取り出そうとすると,「矢部さんの本か」と先に著者の矢部氏の名前が出てきてこちらが驚いた.PDFで一部が立ち読みできるようだ.この本は日本の闇に隠れた支配構造を,明るい光の下に曝す.29日発行だが予約していたので今朝来た.
日本はなぜ、「基地」と「原発」を止められないのか(矢部 宏治著,集英社インタナショナル,2014.10.29)
その前書きは次のように始まる.改行を追い込んで紹介.

 三・一一以降、日本人は「大きな謎」を解くための旅をしている。
 本当にそうだと思います。二〇一一年三月、福島原発事故が起きてから、私たち日本人は日々、信じられない光景を眼にしつづけているからです。
 なぜ、これほど巨大な事故が日本で起こってしまったのか。なぜ、事故の責任者はだれも罪に問われず、被害者は正当な補償を受けられないのか。なぜ、東大教授や大手マスコミは、これまで「原発は絶対安全だ」と言いつづけてきたのか。なぜ、事故の結果、ドイツやイタリアでは原発廃止が決まったのに、当事国である日本では再稼働が始まろうとしているのか。そしてなぜ、福島の子どもたちを中心にあきらかな健康被害が起きているのに、政府や医療関係者たちはそれを無視しつづけているのか。だれもがおかしいと思いながら、大きな流れをどうしても止められない。解決へ向かう道にどう踏み出していいかわからない。そんな状況がいまもつづいています。
 本書はそうしたさまざまな謎を解くカギを、敗戦直後までさかのぼる日本の戦後史のなかに求めようとする試みです。

矢部さんは前に,『本土の人間は知らないが、沖縄の人はみんな知っていること 沖縄・米軍基地観光ガイド』を出している.それについては2012.1.29に『沖縄・米軍基地観光ガイド』で紹介した.それを掘り下げたのが今回の本である.これはまったく衝撃的な本である.事実を積みあげ,いかに戦後の日本がアメリカに従属しているのかを明らかにする.普天間基地は街の真ん中にありオスプレイは市街のうえを低空で飛んでいる.しかし,アメリカ人が住む住宅街のうえは絶対に飛ばない.ここから本書ははじまっている.そしてその章立ては次のようになっている.
はじめに/沖縄の謎−基地と憲法/福島の謎−日本はなぜ、原発を止められないのか/安保村の謎1−昭和天皇日本国憲法/安保村の謎2−国連憲章と第2次大戦後の世界/最後の謎−自発的隷従とその歴史的起源/あとがき
 よくここまでで事実を積みあげ,アメリカの非道とその目下の同盟者,悪代官としての日本政府の姿を浮き彫りにしたものである.かつての日本であれば特高に殺されかねないところである.秘密法が施行されればそれをテコにした攻撃もあるだろう.ぜひ多くの人が読まれんことを.それがまた彼の努力に応えることだと思う.現在ある和書の中で真っ先に読むべき必読書である.
 現代日本の闇の支配構造を解明しようとすれば,x軸が原子力村⊂安保村=旧体制,y軸がアメリカ軍とアメリカ政府,z軸が天皇制,である.その原点に坐っているのが昭和天皇である.本書は,日本のこの闇に光を当て,三つの座標軸が浮かびあがらせる.
 しかし,考えてみれば,この本が出たこと自体が,アメリカが現代のローマ帝国であり,しかも崩壊しつつある帝国であることを証明している.この本の出版はその意味で帝国の崩壊の始まりを告げる.この支配体制を打ち崩し,人々の生活と人間の尊厳,天賦の人権を現実にする世を生みだすまでに,まだまだ困難な道が続く.せめてその道筋を,もう少し明らかにしたいものである.