転換期の意味

私は,現代は,八百年続いた経済原理を第一とする時代から,人間原理を第一とする時代への大転換期である といってきた.それをさらに意味づけする一文に出会った.『人民新聞』の1540号で,歴史家(世界史、文明戦略)・東京大学名誉教授 板垣雄三さんが「欧米近代主義を根本から問い直す時期/テロを激化させる反テロ戦争」と題するインタビューで語っておられる.ぜひ一読を乞う.私は自分の問題意識と関係して次の三点に注目した.
イスラム国」が登場した背景についてイスラム国は、イラク戦争とシリア内戦を通して欧米が作り出し、育成した組織です。米国は、ヨルダンやトルコに秘密の軍事訓練基地を作り、イスラム国の兵士となる人員を訓練してきました。特にシリアの内戦では、欧米に加えてイスラエル、トルコ、サウジアラビアカタールをはじめとする湾岸イスラーム諸国が、資金を出し軍事訓練を施して反体制勢力を強化し、イスラーム原理主義組織を操ってきたのです。イスラム国は、その中から出てきた「お化け」です。
日本が狙われた理由について:第2次安倍政権が、イスラエルとの関係を世界の中でも突出して強化したことが、最大の要因です。ムスリム市民が抱く日本のイメージは、広島・長崎とともに、イスラエルの占領地居座りを警告した二階堂進官房長官談話(1973年)、イスラーム世界との文明間対話を呼びかけた2001年の河野洋平外相イニシアチブなどです。ムスリム市民はとても親日的で、欧米とは違う日本に好印象を持っていました。… 安倍首相は、イスラエル旗を背負って「テロには屈しない」と表明したのですから、この姿は世界のムスリム市民の眼に、日本幻滅への決定的瞬間として焼き付いたに違いありません。
私たちはどのような世界に生きているのかについて:このカオスとは、400年間続いてきた欧米中心の世界秩序が崩壊過程に入っている結果であり、危機を乗り越えるには、世界認識を根本から組み替え直す必要があります。…現代は、欧米中心主義にどっぷり漬かった世界が終わる苦悶の時代です。表層の対立を本物と錯覚してはなりません。
そして板垣さんは,本来,基本的人権や民主主義といった,西洋近代が発見したかのようにいわれる価値観は,実は「東アジアで発展した仏教の華厳哲学、西アジアにおけるイスラームタウヒード(多即一)という考え方や社会システムを土台」としている.西洋は「あたかも自分たちの発明品のようにコピペして、植民地主義や侵略の道具立て、大義名分として利用したのです。資本主義もそういう次元の問題として考え直す必要があります。」と言われる.そしてこの西洋に奪われたことごとを再発見しなければならない.「その兆しが、2011年以降、世界中で起こっている非暴力の新しい市民革命です。世界各地のオキュパイ運動もそうですし、福島事故を契機とする反原発運動もその一つです。」と言われる.これには大いに共感した.
いろいろな情報をつきあわせると,現在,帝国アメリカ自体がもうどうにもならないところに来ていて,これまで蓄積してきた矛盾がついに質的な転換,つまりは爆発しそうなところに来ているようである.しかし同時に,板垣さんが「欧米中心主義がもたらしたあらゆる罪責を免責する『自己破産』(債務者は返済不能なので、債権者も巻き込んで債権処理をする)で軟着陸したいというプロジェクトも、同時に進んでいます。欧米近代主義の破産を、人類全体の問題として処理させるため、全地球規模で『テロとの戦い』を進めていく、という物語です。」と言われることもまた進行している.
同紙に載った,元日本赤軍重信房子さんの一文「中東政策を大転換した安倍政権/軍事介入をやめてイラク・シリアを非戦の地域へ」も,この半世紀の歴史を思えば感慨深い.今から思えば,1968年の青年学生の反乱は「欧米中心主義の崩壊過程」の始まりを告げるものであった.しかし,それはあくまで狼煙をあげただけのことであって,個々のものはそれぞれに新しい生き方を追求してきたし,私もその末席にいるのだが,しかし人間原理を土台とする新しい世の仕組みはまだ見出されてはいない.その意味でも沖縄の政治情勢やギリシアの左派政権の行方に注目している.いずれにせよこの先,紆余曲折と大混乱は避けがたい.新しい仕組みが見出され,人々がそこに向かって動き始めるまで,この混沌は続く.この大いなる試行錯誤の時代! しかしまたそれだけに,今は苦しくも生きがいある時代なのかも知れない.