飼い犬の死

 長く飼っていた犬が今朝死んだ.名前はゴロー.いつもは家の中に入れず外で飼っているが,弱ってやせてきていたので,去年の末からは部屋に入れていた.この2週間ほど,食欲もなくなってきていた.それでも先週の土曜は結構歩いたのだが,この2,3日前からほとんど何も食べなくなった.昨日,次男一家が来て,栄養と水分補給の点滴もしてくれた.それでもう一夜を越したのかも知れないが,けさ少しだけ苦しんで,そして心臓が止まった.昨夜も一昨夜も,苦しいのだろう.夜啼く.こちらが起きて抱いてやるとなきやむ.何夜起こされるのだろうとも思ったのだが,もういいよと逝ってしまった.老衰かも知れないし,何か病気をもっていたのかも知れない.
 2002年に来たのでもう12,3年飼っていたことになる.元の飼い主が夜逃げしたとかで飼育放棄.そのような犬を新しい飼い主に紹介するボランティア活動をしている人から受け取った.享年は14歳くらいだろうか.これも正確にはわからない.来た当初は怖じけていたし,家から脱走したこともあったが,そのうちに慣れ,ここを自分の住まいとわかってきた.紀州犬かも知れないが,これも詳しくはわからない.おとなしくて,道で他の犬に出会ってもこちらから吠えることはない.自分から何か要求するということもほとんどない性格だった.
 この12年,私は毎朝,朝の食事の前に15〜20分,犬とともに散歩.また夕方の散歩は交代交代だが,こちらのときはカメラを肩にかけて,近所の風景や出会った花や虫を撮してきた.ゴローの食欲がなくなってからは,こちらも,一昨年の秋にほとんど食べられなくなった経験があるので,身につまされて見ていた.それで思い出すが,入院の後,こちらが退院できてはじめて半時間ほど歩いて汗をかいたときも,ゴローと一緒だった.これは「季節の移ろい」に書いた.こうして急にいなくなると,こちらの朝夕の運動量が減ってしまう.
 この犬は2匹目であった.われわれは共働きだったので,子どもが帰ってきたとき家に誰かいる方が,ということで飼い始めた.最初の犬はシェパードとポインターの雑種で,大型犬だった.生まれてすぐもらってきて,しつけもせずに育てたので,天真爛漫というか,そんな犬だった.これはリキといった.大型犬は晩年歩けなくなったとき,運動が大変だ.後ろ足にタオルをまわして支えて歩いた.今の家に越してきて2年ほどのうちに,子供らがどちらも家にいる夜になくなった.朝起きたら死んでいた.
 そしてこの2匹目のゴローは和犬はまちがいない.犬の寿命は14年前後.人間の前で,生き物の生き死にを見せてくれる.いろいろ教えられ,考えさせられる.犬は死ぬとき独りになりたがる.おととい小便をさせに外に出て,家に入ろうとすると,一人で車の下に入っていようとする.自分の寿命を知っていて死に場所をさがしていたのかも知れない.それを抱きかかえてまた家に連れて入った次第だった.
 死んで,かつてゴローをもらったボランティアにも連絡してくれた.はじめはこの犬も 苦労したけれど,その後は幸せだったのではないかと言われたそうである.飼っていた動物を火葬してくれるところに連絡して,もって行ってもらった.長男夫婦も昼にやってきて見送ってくれた.写真は2006年戌年の年賀状に入れようと,2005年の12月に撮したもの.いまはこの撮影場所も新しい分譲住宅が建ち住宅街になっている.時間の流れと,ゴローとも結構長くいたのだと実感する.