五山送り火の日に

今日8月16日は京都五山送り火の日.日曜日に重なり京都は人出が多いだろう.昨日15日は日本軍国主義の戦争が敗北した記念の日.今年はその敗戦から70年という節目の年である.あの戦争の犠牲となったすべての人々に対し,ただ合掌し,送り火の日にその霊を送る.
かつて,世界恐慌ロシア革命によって資本主義の危機が深まるなかで,後発の資本主義国であった日本は,日本軍国主義というファシズムに陥り,あの戦争をひきおこした.
戦争は,アジアの人々,そして日本の人々を塗炭の苦しみに陥れた.身近ななかでも,私の母の兄弟にも義父の兄弟にも戦死者がいる.母は戦時中代用教員をしていたが,その故郷宇治の小学校での教え子の親にも犠牲者がいる.母は,なくなる少し前,「父母のこと」の中に書いたように「戦争のころの思い出」と題する孫への手記を残してくれたが,そこに次のように書いている.

私の組の子のお父さんも召集令状がきて、朝早く日の丸の小旗をもって駅まで送っていったのです。その時そのお父さんは涙を流して「子供をよろしくたのみます」と言って淋しく汽車の窓から手を振ってられた姿が、今でも目の底にやきついています。
しばらくすると役場(今の市役所)からお使いの人がこられて、「名誉の戦死です」と通知を持ってこられたのです。そこのおうちは三年生の女の子と一年生の男の子でしたが、お母さんが頑張ってこられて今はお米屋さんとして立派に暮らしておられます。
私の実家でも二番目の兄が三才と一才の女の子をおいて出征したのです。フィリピンへいく船が太平洋で撃沈されて戦死です。遺骨と言って白い布で包んだ箱が帰ってきましたが、中身は砂でした。

1945年の2月に停戦の機会はあった.近衛文麿天皇に降伏を上奏している.その背景には共産主義革命を恐れるという動機があったのであるが,しかし,それに対して昭和天皇は,もう一度戦果を上げてからとして,これを受けいれなかった.このときに降伏を決断しておれば、3月の大阪空襲も,6月の沖縄の地上戦も,8月のソ連の参戦も,そして広島,長崎の原爆もなかった.ポツダム宣言をただちに受け入れておれば,8月の惨禍はなかった.負け戦と決まれば一刻も早く白旗をあげるのが,民の苦しみを少しでも減らす上での基本である.昭和天皇とその取り巻きは,それよりも皇統の護持,近代官僚制の保持を優先した.
近隣諸国に対してあの戦争を謝罪しなければならない,いやその必要はないと,議論がなされてきた.日本軍国主義のおこなった戦争を,日本の人民がかわって謝罪することなどできない.できることは,彼らに責任をとらせることである.しかしこの70年,あの戦争を指導した政治家や軍人たちに責任を取らせることはできず,戦争を推し進めた体制をそのまま戦後に引きずった.ここにわれわれ自身の問題がある.われわれが歴史に謝罪するべきことは,戦争犯罪者を裁けなかったことである.
そしてその戦後体制は,安保村,原子力村となり,それが2011年3月11日に東北地方を襲った地震津波によって,福島第一原発の核惨事をひきおこした.戦争責任をきちっと追及し,無責任体制の日本の官僚制に打撃を与えることができていれば,地震津波という自然災害に,こんな悲惨な核惨事が重なることは防げたのではないか.そして,戦争犯罪人を裁けなかったことはまた,あれだけの核汚染をまき散らした企業である東電の責任者が4年も放置されたことにつながる.
そしてショックドクトリンである.この地震津波そして核惨事を利用して,再びのファシズムに向かおうとしている.それが,現在の安倍政権である.集団的自衛権を容認するという憲法に違反した閣議決定を行い,そのうえに戦争法案といわれる一連の法改定を行おうとしている.行政府は法の下にある.基本法としての憲法の執行者である.憲法を恣意的に解釈することは許されていない.しかし安倍内閣は3.11のショックを利用して,一連のファシズム政策を進めようとしてきた.
それどころか,先日は,防衛省内部で戦争法の成立を前提とした自衛隊の派兵計画が作られていることが明らかになった.また,安倍首相自身イスラエルを訪問し,アメリカやイスラエルとの新たな軍事協力関係を,先行して進めている.イスラエルに住む人からの報告「イスラエル・日本間の新たな軍事協力関係」(人民新聞 1557号)は,次の書き出しにはじまる.

昨年12月、テルアビブ北部ヘルツェリア・ピトゥアの在イスラエル日本大使公邸で開かれた天皇誕生日パーティに、イスラエル軍上官クラスおよび軍需産業関係者多数を含む130名が出席した。「日本は平和主義国だと思っていたので、イスラエル軍の催し会かと思うほど多くの軍組織関係者や兵隊が出席していたのには、目を疑った」と、式に招かれた知人は語った。

さらに,7月2日から4日まで、テルアビブで軍需製品の見本市(Israeli/defence/expo)が開かれ,ここに日本企業も続々参加したことが報告されている.7.19 NHK日曜討論で生活の党の山本太郎さんが「安保法案の真の目的は経団連の金儲け,武器製造・輸出のため」と発言しているが,これが事実で裏づけられている.日本の軍需産業自体が戦争法を求めている.
だが事ここに至って,若い人らが立ちあがった.前に紹介した「学生デモ 特攻の無念重ね涙」という京都府に住む86歳の元海軍飛行予科練習生から寄せられた投稿を,SEALDsの若者が8月15日に朗読している.その全文をIWJが伝えている.「今のあなた方のようにこそ、我々は生きていたかったのだ」終戦70年前夜、SEALDs奥田愛基さんが涙の朗読──特攻隊を志した86歳男性から若者らへのメッセージ.人間としてまっとうに生きようとする思いが世代を超えて伝わる.これにはほんとうに心を動かされ,励まされる.
かの大戦の敗北,そして東電核惨事という敗北.二つの敗北を教訓に,世代をこえた人間のつながりのこの力で安倍を倒せ.安倍ファシズムを倒せ.いま再びの軍国主義を許すな.この運動が,ながく続いた金儲け第一の時代を終わらせ,人間第一の時代をきり拓く.