鮒寿司考(続)

鮒寿司を食べると故郷を思い起こす.琵琶湖水系の人間にとって,鮒寿司は小さい頃のこの風土の思い出と結びつく.このような土地土地の食べ物は,それぞれの地方や村や町にもある.日本列島弧は暖流と寒流が行き交う多湿な温帯にあり,生物の多様性は,例えば地中海地方に比べても大変大きい.長い時間をかけて育まれた特産の品々は,本当に貴重なものなのだ.
この1年,福島でどれだけ多くの特産物が失われたことか.若狭の原発が核惨事を起こし,北風に乗って死の灰が琵琶湖に降り,鮒寿司が食べられなくなる.これがこの1年,福島で起こった.そういうことなのだ.福島の海に面した地方には,市場に出ないで地元でだけ食べるような海産物もあっただろう.あるいは,山間の村でようやく特産品として根づきはじめた乳製品もあっただろう.何より,故郷そのものに住めなくなった人がたくさんいる.
ところが日本政府はあいかわらず利益誘導で若狭の原発を再稼働しようとしている.「露骨な利益誘導で再稼働」のような記事を読むとそれがよくわかる.とりあえず昨日の福井県議会で知事は国の基準が出ないうちに認めることは出来ないと答えていた.しかし,今後ますます福井県への圧力も強まるだろう.若狭で原発を再稼働してゆけば,百年という長さで考えるとき,惨事が起こる可能性は大変高い.
鮒寿司が失われるかも知れないという時代に生きている.鮒寿司を後の時代に残せるかどうかは,今のわれわれの責任である.鮒寿司のうまさに沈潜しているだけではいられない.